追悼


藤本獅郎神父の葬式はしめやかに、そして厳かに行われた

急逝にも関わらずたくさんの弔問客が訪れた

参列する彼らの口数は少ない

雪男は義理の父ではあるが、代表として喉がかれるほど挨拶をした

いざ棺桶が埋められるとついに泣き崩れる者が次々と出たが、雪男は涙腺がうずくことすらなかった

すべてが終わり、ようやく落ち着いた頃、雪男は人知れずみなの輪から離れた

兄の燐もいないことに気づいていたが、雪男は敢えて追わなかった

気がつけば春の冷たい雨の加護を受けていた

服に少しずつ侵食してくる雨

雪男はそっと空を見上げた

鈍色の雲から落ちてくる水滴が眼鏡に当たり、視界をぼかす

ふと、雲をさえぎるように視界いっぱいに青が映った


「……綴さ――」


雪男がすべてを言い終わる前に綴 は彼の左腕をつかむと、女性とは思えない強い力で引っ張り始めた


「え、ちょっ、綴さん!?」

「いいから黙って付いて来い」


一度だけ振り向いてそういった

雪男はされるがままに走った

綴は一番近くにあった扉に持っていた鍵を差込、乱暴に開けた

2人を出迎えたのは生ぬるいような風


「えっと、ここは?」

「私の家だ」


どうやらつれてこられたのは綴の家のようだ

ボロすぎず高級すぎず、いたって普通のマンションの一室


「ちょっとそこで待ってろ」


というと、先に綴は部屋に上がる

しばらくすると真っ白いふかふかのタオルを持って現れた

雪男はそれをありがたくうけとると、ぐっしょりと濡れた頭や顔を拭く

一通り吹き終わったところで居間へ通された


「コーヒーしかないけどいい?」

「……いえ、結構です」


と、断ったが、いいから飲みなさいという威圧的な視線におとなしく「やっぱりいただきます」と言った

リビングからキッチンが見えるような造りで、耳を澄ませばがりがりと豆をひく音が聞こえてきた


「(あ、わりと本格的なんだな)」


なんて心地いい音に耳を澄ませば、綴がここにつれてきた真意を考える前にコーヒーが先に出ていた


「砂糖とミルクは?」

「お願いします」


角砂糖一つとミルクを少々加えると、黒い液体は瞬く間にクリーム色へと色を変えた

対する綴も砂糖を二つだけ加えるとそのままブラックで口をつけていた


「いただきます」

「どうぞ」


湯気が立ち上るコーヒーを何度か吹きかけて少し冷ます

上品な苦味とほのかな甘さが口いっぱいに広がった

喉を通過したコーヒーはそのまま胃へ流れ、ジン割と冷えたからだの芯を温める

しばらくどちらとも口を開くことなく、静かにコーヒーを味わった


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