再会 side綴


奥村雪男は珍しく苦戦していた

深い森の中、彼は一人虚空に向かって銃を放つ

一見、ただの無駄に銃弾を消費しているように見えるが、目標に当たっていた

着実に敵の数は減ってはいるが、如何せん、量が尋常じゃない

さらに減っているのは下級の雑魚ばかりで肝心のボスはなかなか姿を現さない

もう何度目かの舌打ちをし、銃弾を装填する

普通、任務は最低でもペアで行うものだ

だが今この場に雪男以外、誰もいない


「クソッ!」


もともとは任務帰りたまたまある噂を聞いて視察がてら来たのが原因だった

うかつにも敵の領域に足を突っ込んでしまい、それを荒らされたと感知した敵が仕掛けてきたのだ

味方に応援を頼む前に仕掛けられたので仕方なく単独で祓うことになってしまった

うっかりにも程があるなと数分前の自分を呪った

撃てども撃てども源水のように溢れ出る

これではキリがない

さすがに独りでこの量を片付けるには限界があった

すると突然、目の前を黒い何かが過ぎった

新手の悪魔かと銃を向けるが、弾が出ることはなかった

青みがかかった白い紙のの隙間から見えたのは鋭く光る灰色の目

その吸い込まれそうな灰色が一瞬だけこちらを見た

その黒い影は人間とは思えない柔軟な動きで闇夜に光る剣で敵を掻ききっていく

ほんの一瞬、一秒にも満たない時間だったが、驚きでぼうっとしているとこちらに光の矢が飛んできた

ノイズのような悲鳴がすぐ後ろで聞こえた

それはわずかに髪を掠って背後にいた悪魔の心臓を貫いたのだ

その声に我に返り、再び敵に黒い銃を向けた


彼女の戦い方は場馴れした、とにかく誰にも真似できないようなものだった

それは雪男の目から見ても鮮やかな手さばきだった


――たった一人増えただけだったが、戦力は倍以上になり、それから十分もしないうちに周りは静かになった


悪魔の痕跡を消すために聖水をかける作業も終わったところで雪男が口を開いた


「お久しぶりですね、綴さん」


綴と呼ばれた少女は口で弧を描きながらこういった


「奥村も元気そうで」

「えっと、祓魔師認定試験以来でしょうか?」

「そういうことになるな」

「正直こんなところであなたと会うとは思いもしませんでした」


雪男はふいに郷愁感に襲われた

彼女とは祓魔塾からの付き合いだ

同い年だったこともあり、よくペアを組んでいたりしていた

だが、彼女は一度目の祓魔師認定試験にわずかに規定に届かず落ちてしまったため、祓魔師としては雪男のほうが一年先輩なのである


「ところでなぜここが? 僕は誰にも連絡した覚えはないのですが……」


というと綴は先ほどとは打って変わり、あからさまに嫌そうな顔をした


「あ、いや、別に奥村が悪いわけじゃないんだが、あのペテン師が急に呼び出したと思ったら急に飛ばされたんだ」

「あの悪魔、いつの間に……」


どうやら見られていたらしい

だったらさっさと応援をよこせばいいのにと毒づいた


「ご迷惑おかけしてすみませんでした」

「気にするな。元はと言えばあのペテン師が悪いんだから」

「――ペテン師とはまた酷い呼び方ですねえ」


耳にまとわりつくようなそんな声が聞こえ、二人は慌てて振り返った

そこには白とピンクを基調とした奇抜なスーツを来た悪魔がいた

それを視界に入れるやいなや、綴はさらに嫌そうな顔をする


「いやあ見事な連携プレイでしたねえ」

「どっから現れた」


ふしゃーっと猫が威嚇するように殺気を放つ


「ああ、そんな警戒しないでください」

「そんな言葉誰が信じるか!」


この悪魔、メフィスト・フェレスという男は日本支部の頂点に立つ男でもあり、だいたいの祓魔師は彼を見るだけで震え上がったりする

ところが彼女の場合、震え上がるどころか思いっきり殺気を放っている

それなりに知れた仲なのが伺える


「どうです? 今から三人でお茶でも。積もる話もあるでしょうし」

「結構だ。するなら奥村と二人でする」

「冷たいですねえ。せっかく今日のために特注のチーズタルトを用意したのですが」


ああ、心底残念ですと演技めいたメフィスト

誰がこんな安い餌に釣られるかと雪男は思ったが、すぐ隣で綴は揺らいでいた

苦虫を潰したような悔しい表情をする

そして、


「チーズタルト食べたらすぐ帰る」


と苦痛に歪んだ言葉がメフィストに向けられた

それを確認すると満足したようにそれでは先に本部で待ってますと言って、彼はお決まりのドイツ語を口にし、帰っていった



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