泣かないあなたのかわりに
「あ、またサボりに来たの?」


土を踏みしめる音に気がついた彼女が振り返る


「それ、そのままそっくり同じ言葉を君に返すよ」

「ですよね〜」


まあサボってる時点で俺も彼女も五十歩百歩なんだけどね

そのまま彼女の隣に腰を下ろす

彼女と俺の視線の先には赤いレンガブロックで囲まれた一畳ほどの花壇には色々な花が顔を見せている

赤や黄、橙、紫と多彩な色をみせるパンジー

鮮やかなピンクで主張するのはシクラメン

秋の桜とも呼ばれるコスモスなど

中にはいつの間にかちゃっかりと根付いたシロツメクサがある


「最近よくここに来るね」


自前の如雨露でそれらに水をやりながら彼女が言った


「だってここに来れば君に会えるだろ?」


歯の浮くような台詞に一瞬、彼女は文字通り目が点になった

そして真顔でこう言った


「頭、大丈夫?」


さすがの俺も心が折れそうになった


「ここは普通真っ赤になって『ばっかじゃないの!?』って否定するところなんだけど」

「あーはいはい。気のきかない彼女ですみませんねー」


棒読みで軽くあしらわれ、名前はそのまま水遣りを続行した

少し恨めしさを込めた視線を送るも、効果なし

まあ、そんな冷たいところも好きなんだけどさ

それ以降、会話らしい会話はなく、水が弾く音だけがこの場を支配する

今日もまたそんな感じで終わると思ってた


「あれからもう一ヶ月だね」


突然、彼女が口を開いた


「そっか。もう一ヶ月経つのか……」


この時、名前にそう言われて気づいた

あの夏から早、一ヶ月

静かに目を閉じれば――



焼き付けるような日差し

聞こえてくる声援

途切れとぎれの息遣い

止めどなく溢れる汗

球を打った時の感触

――そして、目の前で散っていった夢



一ヶ月経った今でも鮮明に蘇る



「――精市?」


はっと目を開けば、さっきとは打って変わった心配そうな表情をした名前が飛び込んできた


「ああ、ごめん。ちょっとボーッとしてた」


なんて言って苦笑いを浮かべると、彼女の下がっていた眉毛が急に上がった

そしていきなり頭を両手でホールドされて、無理やり右を向かされたかと思えば、次の瞬間にはこつんと額と額があった


「え?」

「元気の出るおまじない」


それからすぐに数秒もしないうちに俺を解放するや否や、名前は立ち上がり、校舎の方に歩き出した


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


俺も慌てて名前のあとを追う

だけど、俺の静止の声を無視してずんずんと進んでいく名前

ようやく肩を掴み、こっちを向かせて驚いた

彼女の大きな瞳からポロポロと涙が溢れていた


「え、え、え!? 俺、なにかした?」


とっさの出来事に頭が真っ白になる

うまく働いてくれない頭をフル回転して今までの自分がした行為を振り返るが、心当たりはない


「違う」


一つ、また一つとこぼれ落ちていく涙を拭う彼女はこう続ける


「あんたが泣かないから代わりに泣いてるの!」

「俺の、代わりに?」

「バレてないと思った? 一ヶ月前も今だってそう! いっつも笑顔で誤魔化して!」


ついには子供のように声を上げて鳴き始める名前

必死に名前の前では騙してたつもりだったんだけどなあ

泣きじゃくる名前をそっと抱きしめる


「ごめん。ごめんね」


抱きしめた名前はひどく小さく感じた


(泣かした罰として駅前の喫茶店のチョコレートキャラメルパフェおごってもらうんだから!)

(はいはい。仰せのままに俺のお姫様)







----------キリトリ----------
龍桜さん一万ヒットおめでとうございます!
僭越ながらお祝いの言葉とこれ↑を送ります
これからのご活躍楽しみにしてます!!

=チラ裏という名の言い訳タイム(本編)=
せっかく幸村とほのぼのというリクを頂いたのになんだこのザマは!!
ほのぼのは比較的得意だったというのに出来上がったのがこれですよ
ほのぼのの要素どこいった……
いやね、初めは全然主人公泣かせるつもりとかなかったんですよ
和気藹々とお花について語って終わるつもりだったんですよ
ど う し て こ う な っ た……
いや、幸村のことを考えるとどうも、ね
強い人ですからどんなことがあろうとも必死に堪えて泣かなかったんじゃないだろうかと
いや、泣いてる幸村はそれはそれで十分美味しいです
そしておでこコツンのネタ被ってすみません
常套句になりますが、愛は込めました
おめでとうの気持ちも十分に込めました!
ただ私の頭がトチ狂ってただけです!!!←
返却も書き直しもAlways受け付けてるので遠慮せず、言いつけてください

色々とウザったく長くなりましたが、一万ヒットおめでとうございます!!


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