◎上空では突風と一斗缶にご注意ください
――扉の向こうは青く澄み渡る空でした
「ひぃぃぃぃいいいいいいいい!!」
白一つない青の中を4人の少女が落ちていく
悲鳴をあげているのは4人組ブレイン且つ常識人を務める梓
「スカァァァァァァァァァァァイダイビィィィィィィィィィィィィング!」
自称シリアスブレイカーこと楓とイジリー担当の棗はこの状況をスカイダイビングと楽しんでいた
もちろんただのスカイダイビングではない
パラシュートなしのスカイダイビング
よって命の保証はない
「これどういう状況!? というかどうするの!?」
「とりあえず楽しめばいいと思うよ!」
ウインク+舌出しの棗に梓は顔面に容赦ないグーパンを入れた
「ああ、どうせならあのときりんご飴買って食べておけばよかった!」
「至極どうでもいいわ!」
「だ、大丈夫だよ梓! こういう時、今度こそ環の異能があれば! ねっ! 環――」
「……」
棗の言葉に答える声はない
「返事がない、ただの屍のようだ。なんつって☆」
返事のない環に棗がそんなことを言うが、
「ごめん。それ、マジだわ」
「え?」
「は?」
「環、気絶してる」
今まで無言だった環は白目をむき、口からは毒殺されたしたいのように泡を吐いており、実に見るに耐えない画である
「え、ちょっ、えええええええええ!? マジで!?」
「そういえば環、中学の時の修学旅行でいったテーマパークの絶叫系でもそうだったわ……」
どこか遠いところを見る梓の目に光はない
「やべ、これ絶対絶命じゃね?」
「絶『体』絶命ね」
「そこ突っ込むところじゃねえから!」
珍しくツッコミに回る棗
空間操作という異能を持つ環ならこの状況を打破できると思っていたが、これではただのお荷物だ
「あれだね、これがジ・エンドってやつか……」
「短い人生だったなあ」
楓と梓がしみじみと言う
「あ、諦めんなよ(某熱血庭球プレイヤー風! ほ、ほら漫画とかでよくあるじゃん! 下で誰かが受け止めてくれるのとか」
「それはヒロイン補正のあるラピ●タのシ●タだけだよ」
「シィィィィィィィタァァァァァァァ」
「パズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
「さっき伏字にした意味ないじゃん! しかも楓乗るな! こんな状況でよくそんな遊びができるもんだね!」
まあ、この漫才もそれこそ今に始まったことではないが
なんて実は余裕綽々の4人(3人?)に突風が襲ってきた
「きゃあっ!?」
「ぎゃあっ」
「うっぷすっ!」
明らか一人おかしいのは棗である
吹きつける突風に飛ばされないようにお互い手をつなぐが
「あ、環が!」
梓が未だ気を失っている環の手をつかもうとした瞬間、まるでその間を裂くように風が吹く
そのまま環は風にされるがままにどこかへ飛ばされてしまった
「そしてこのあと彼女の姿を見たものはいなかった……」
「マジでそういう縁起悪い冗談言うんじゃない」
「大丈夫だ、問題ない。環ならまたどっかで会え――」
「あ、何か飛んできた」
「え?」
カコーンとどこからか飛んできた一斗缶が棗の頭に直撃
棗の意識は一瞬にして吹っ飛び、するりと掴んでいた楓の手を離した
「棗ー!」
環同様、棗も暴風に巻き込まれ、遠く彼方へ消えていった
「ちょっ、マジで冗談言ってる場合じゃなかった!」
「いや、初めからそうだからね!?」
「そして今めっちゃトイレ行きたい」
「本当自由だな!」
ここまで長かったが、ようやく地上に何があるかわかってきた
「どうせ死ぬなら楽に死にたかった」
「うちもー。ところでさ、下に人らしきもの見えない?」
「もう死ぬんだから別にいいじゃん」
「いやいやもしかしたらマジでラピ●タみたいに誰か受け止めてくれるかもよ?」
がやがやと和服をきた人々が現代風の乗り物に乗ったりしている賑やかな街
幕末と現代をごちゃまぜにしたそんな印象だ
しかし楓たちが知る限り、こんなところは知らない
「まあ限りなくゼロに近いけどね」
「よっしゃそれじゃあ呼びかけて助けてもらおう」
「果たしてそう簡単に助けてもらえるものかな? 空から人間降ってきたら誰だって逃げたくなるものだけど」
「もう変なところでリアリストなんだから。じゃあこのまま二人で死ぬ?」
「心中は遠慮しておきます」
「じゃあイチかバチかに賭けようぜ! どうせ死ぬなら最後まで抗おうぜ!」
結局楓に絆され、そうだねと返した
「それじゃあせーのっで助けてくださいって言うよ?」
「はいはい」
二人は目一杯息を吸い、そして力の限り叫んだ
divisi
ディビジ:分けて奏する