“愛情の裏返し”なんて所詮詭弁

一方その頃の真選組。

実は真選組と万事屋はわりと遠くないところにいるともいざ知らず。

環は山崎と一緒に書類整理をしていた。


「ザキヤマさん」

「山崎です。どうかしました?」

「そろそろ休憩にしません? 区切りもいいところですし」

「そうだね。そうしようか」

「じゃあお茶淹れてきますね」

「いや、俺が」

「気にしないでください。足疲れたんでリハビリがてら行きますよ」

「それじゃあお言葉に甘えようかな」


環は頷くと部屋を出た。

環は環なりに回ってくる被害届や事件の報告書など血眼になりながら梓と楓の名前を探した。

こんなところで出てきて欲しくないと思っているが、万が一ということを考えていた。

幸か不幸か、今のところ彼女らの名前はない。


「しっかし体中痛いわー」


ゴキゴキと肩を回しながら廊下を行く。

すると少し離れたところから棗の地を這うような声が聞こえてきた。

環の直感が面白いが見れると告げ、少し寄り道をして道場の方へ行く。

そこでは隊士たちが激しく竹刀を打ち合っていた。

その隅で


「も、もう限界っす……」

「だらしねえなァ」


うつ伏せに倒れる棗とつまらなさそうに竹刀を掲げている沖田がいた。

土方から頼まれてやったというのは癪だが、思いのほか沖田は棗の面倒を見ることに面白さを感じていた。

言わずもがなサディステック的な意味で、だ。

荒削りとは言え、ある程度出来上がったそれを育てて行くのは存外楽しいものだった。

もちろんサディスティック的な意味で。


「だって沖田さん地味におんなじところばっか狙ってくるやないっすか!!」

「あーそうでしたっけねェ?」

「わざとだ! この人絶対わざとおんなじところ狙ってるううううう!!」


「ひぃぃぃぃいっ!」と声を上げる棗はふと廊下から環が見ていることに気がついて声をかけた。


「助けて環ー!! 自分死んじゃうううううう!!」


環の足に蛇の如くまとわり付くが、


「気持ちわるいし暑苦しいからまとわりつくんじゃねえ!!」


と、大きく振り払われ、滑る床にそのまま壁に顔面を激突させた。


「ひ、ひでえ……ひでえよォ……これが友達にすることかよ……」

「全部棗のためにやってることなんだから」

「いやでもほんとこれきついんだって。もう朝から筋肉痛でバリッバリッでさァ」

「わしゃそんなこと知らぬ存ぜぬ勝手にやってろ」

「デ☆ス☆ヨ☆ネ☆ー」


泥船だとわかって乗ったが、やっぱり泥船は泥船だった。


「でもまあ案外いいんだよね……」

「え? 何が?」

「あんたがこうして地面に這いつくばってる姿みるの」


ほんのりと頬を染め恍惚の表情を浮かべる環。


「どSゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!! そうだこいつ根っからのサディステックだったアアアアアアア!!」

「おや奇遇ですねィ。俺もその意見には賛同でさァ」

「ここにもいたアアアアアアアアアアアアアアア!! ナニココ?? サドしかいないの!? サドの魔窟なの!?」

「というのは3割ぐらい冗談で」

「あ、残りの7割は見てて気持ちいいんだ。このサドがァ!」

「まあいいから聞け」


ドスの効いた声で言えば、「あ、はい。すみませんでした」と平謝りする。

環は一度咳払いをしてから言う。


「もともと棗の主要武器はライトセイバー(笑)なんだからある程度剣術身につけないと実践じゃ役に立たないんじゃ?」

「うーん。言ってることはごもっともなんだけどさ、実はそのライトセイバー(笑)は最後の最後までとっておけって副長さんから言われてんだよー」

「え、そうなの?」

「そうそう。確かに威力は認めるらしいんだけど、なんか色々とアウトらしい」


「そりゃあ、まあ必殺技は最後までとっておくべきやけどねー」と呟いた。

環としては、「得体の知れないものを堂々と振り回すのは――」と喉まで出てきたが、無理やり飲み込んだ。


「ふうん。でもまあ確かにそっちのほうか棗的にもいいのか」

「ふとした瞬間が引き金になるかもしれんしね!」


わらわらと笑い合う二人の内容は沖田にとってよくわからないものだったが、特に気にするものではなかった。


「ほらいつまでもくっちゃべってねえでさっさと続きするぞ」

「ええ!? まだやるですかー!? もう勘弁してくだせえ……」


沖田はぐりぐりと竹刀の先で棗の頬をぐりぐりとする。

その表情は実にいい笑顔。

まさにS。

情けない声を上げる棗に他人事のように一声かけてから本来の目的である台所へ向かった。

お茶の入った急須と湯呑を二つお盆に乗せて部屋に戻る。

戻った部屋では山崎は軽くストレッチをしていた


「すみません、ちょっと寄り道してたら遅くなりました」

「いいよいいよ、気分転換は大事だからね」


それからお茶を湯呑に移し、二人でほぉっと一息。

ゆっくりと流れる雲を見ながらのどかな午後を満喫した。

すると突然山崎が大声を上げた。


「そういえば今度あそこの店、季節限定あんみつやるんだった!!」

「あんみつ?」


山崎曰く、密かに通いつめている甘味処でその季節をあしらったあんみつが期間限定で出るらしい。


「へえーそうなんですか」

「たまたまある事件の張り込み中の時に得た情報なんだけどね。あ、その時に手に入れたって副長には言わないでね。締められるから」


わりとフリーダムな職場なんだなと環は了解ですと答えた。


「あ、じゃあどうせなら口止め料として今度連れてってくださいよ。あ、もちろん山崎さんの自腹で」

「……君のその物怖じしないところ、ある意味尊敬するよ」

「褒め言葉としてもらっときますね?」


ちょっとげんなりする山崎に環はニコリと笑った。


「でもまあいいよ。ここに来てからずっと手伝ってもらってるし」

「そりゃあ仕事ですから」

「じゃあ今度非番がかぶったら行こうか」

「楽しみにしてます」


それから二人はまた山のような書類をさばき始めた。


bruscamente
ブルスカメンテ:乱暴に




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