我らの腐れ縁引力を見くびらないでいただきたい

「銀時さーん! 神楽ちゃーん! 楓ー! 朝ですよー!」


この世界に飛ばされ、万事屋に住み込みで働くこととなって早一週間が経った。

万事屋内の家事はほぼ梓が行っている。

朝ごはんも用意できたところでまだ寝ている三人を起こしに行く。


「うー……梓おはよーアル」

「うへえーおはよー」

「おはよう二人共」


まだ眠たい目をこすりながら起きてきた。

だが、銀時はまだ起きてこない。

もう一度呼んでみるもウンともスンとも返ってこない。

「仕方ない」と、勝手に寝室に上がり込むのは気が引けるが、直接起こすことに。


「銀時さん、朝ですよ」

「ん〜だよ、まだ7時じゃねえか……」

「もう7時です。ほら、もうすぐ新八くんが来ちゃいますよ」

「ほっとけ。俺はまだ全っ然寝足りねえんだ」


そう言って布団にうずくまる銀時は何かの虫のように見える。

初めこそ遠慮していたが、銀時のあまりにも酷い生活に危機を覚えた梓は規則正しい生活を送ってもらおうと、こうして奮闘していた。

布団に籠城する銀時に梓は困り果てるが、


「梓、心配しないでアル。ここはこのかぶき町の頂点のワタシに任せるアルネ」

「神楽、ちゃん……?」


すると神楽は寝ている銀時の腹にサッカーでシュートを決めるように強烈な蹴りを入れた。

ちょっと危ない音が聞こえたのは言うまでもない。


「がはっ! げほっ、げっ、げほげほっ……。朝から何すんだバカ野郎!」

「さっさと起きない銀ちゃんが悪いアルネ」

「だからってもっとまともな起こし方があるだろうがァ!!」


こうして神楽が強硬手段で起こすのも日課になりつつある。

ぎゃいのぎゃいのと叫びだす二人を何とか宥める(朝食のおかずで釣る)。

そして新八も来たところで5人で食卓を囲む。


「いただきまーす」


今日の朝ごはんは白ご飯と簡単な豆腐の味噌汁、だし巻き玉子だ。

先ほどの仕打ちからは銀時と神楽が玉子の取り合いをする一方で新八が梓たちに聞く。


「この生活には慣れましたか?」

「はい、おかげさまで何とかやらせてもらってます」

「よかったあ……。もし何か困ったことがあったら遠慮なく言ってくださいね」

「はい」

「梓ーおかわりー」

「はいはい。ちょっと待っててね」


まるで何年も前からこんな風に生きてきたような錯覚さえ覚えるほど二人はここに馴染んでいた。

それから朝食を食べ終えると、新八が持ってきた依頼内容を確認。

時折楓の「ええええ……面倒くさいいいいい」、「せっかく久しぶりの依頼なんだからちゃんと働いてくださいよ」と声が聞こえてくる。

その間梓は皿洗いをする。

梓は家事を任されているが、万事屋の仕事には基本関わらない。

というのも自分では仕事を手伝うどころか足を引っ張ってしまうかもしれないと思っているからだ(しかし力仕事ではない簡単なものには参加する)。

その代わり、梓は自主的に近所の甘味処でバイトをするようになった。

少しでも万事屋の負担を減らそうと考えた末の結論で、もちろん反対するものは誰もいなかった。

他にも接客を通じて環や棗の情報を集めようという魂胆があったりする。

残念ながら今のところ、手がかりは何もないが。

皿洗いを終えたところでバイトへ行く準備をする。


「今日もバイトー?」

「うん。少しでも二人の情報を集めないとね」

「健気だねー。そのうちひょっこり現れるから大丈夫だってのに〜」

「わたしはむしろあんたのその余裕がどこから出てくるか知りたいわ!」

「人生なんとかなるようにできてるんだよ」

「達観してるのか、ただ探すのが面倒なのか……。まあ、楓のほうも依頼先とかでちゃんと聞いてみてよ?」

「りょーかい」

「それじゃあいってきます」


新八と神楽、楓に見送られて梓はバイトへ行った。

新八が持ってきた依頼は9時からでそれまでは各々過ごす。

銀時は二度寝、神楽は定春とじゃれあい、新八はお通のCDを聞いて涙を流し、楓はソファに寝っ転がってジャンプを読む。

だいたいこれが万事屋の日常だ。

時間の一時間前に銀時が起きてき、自分の定位置に座った。


「なあ、楓」

「なにー銀ちゃん。今ちょっといいところなんだけど」


ジャンプから目を離すことなく返事する。


「お前さァ、梓みたいに探さなくていいの? 友達なんだろー?」


一応、心配してくれているようだ。

だが、銀時の気遣いもよそに楓はやっぱりページをめくる手は止まらない。


「梓にも言ったけど大丈夫だよ。だって同じ空の下にいるんだしさ。そのうち見つかるって」

「もしかしたら一年、いや一生見つかんねーのかもしれねえのに?」

「それはないね」


ここでようやく視線を銀時に合わせ、どこか自信に満ち溢れた笑みを浮かべた。


「根拠なんてないけど、自然と引き合うんだよ。どこにいても気がつけば全員集まる習性があるのだよ我々は。だから大丈夫さー」

「ふうん」


「そんなもんかねー」というと「そんなもんだよ」と楓は笑顔で返した。


「さあ、銀さん、楓ちゃんに神楽ちゃん。そろそろ行きますよ!」

「えー」

「ほらうだうだしてないで、さっさと起き上がって!」


新八に尻を叩かれながら起き上がる三人。


「ハア……それじゃあ今日も行きますか」

「おー」


やる気のない声とともに万事屋は外に出た。



majestueux
マジェスチュ:堂々とした




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -