男は笑顔と涙で黙らせろ

むさ苦しい部屋にさらにゴリラ――基、近藤も加わったところで環はこれまでの経歴を話すことにした

最初に異世界から来たというと、土方たちだけでなく棗も声を上げた


「え! ここって異世界だったの!?」

「仮にここをあたしたちがいた世界としても宇宙人とかいなかったでしょうが!」

「た、確かに!」

「まあ棗は放っておいて」

「さりげなくひどい!!」

「黙らっしゃい!!」

「アドレナリンッ!!」


環の華麗なチョップに棗がよくわからない叫び声と共に物理的に黙ったところで、改めて


「これからお話することはすべて事実ですが、とても信じられる話じゃないと思います。まあそれを信じるかどうかは皆さんにお任せします」


一息おいたあと環は話し始めた

話している内容はこことは違う世界軸の人間で気がつけば空に投げ出され、落ちてきたのがここだというもの

それから自身たちのちょっと変わっていることについても話した


「もしかしてあン時俺の刀を斬ったり、あの鳩尾の一発もその力の仕業か」


完全に信じているかどうかはわからないが、意外と飲み込んでいるようだ


「え、何、棗そんなことしたの?」

「ええ、ああ、うん、まあ……逃げるために仕方なく。なははははっ……?」


環から視線を逸らす棗の渇いた声が部屋にこだまする


「それでアンタはどんな力を持ってるんでェ?」


沖田が聞く


「口で説明すんのは面倒なので見せますね。よっと」


環の横に真っ黒い穴のようなものに右手を突っ込んだ


「ちょっと誰ですか、俺のほっぺ触ってるの」

「え、俺は触ってないぞ?」

「俺もだ」

「俺もだぜぃ」

「あ、もちろん自分もっすよ」


そのとき「ザ、ザキ左……!」と近藤の顔が真っ青になったことに左を見ると、


「ギャッギャアアアアアアアアアア!?」


右手首だけが山崎の横でひらひらしている


「てて、て、手品とかじゃねえだろうなァ?」


表情は変わらないが、声が思いっきり震えている


「なんなら後ろから首絞めてあげましょうか? え?」


相変わらずのいい笑顔でわっきわっきと右手を動かす


「……いや、遠慮しておく」

「チッ。そのまま首絞められて死ねばいいのに」

「おい総悟。今なんか言ったか?」

「何も言ってやしてませんぜ土方死ねコノヤロー」


身内で火花を散らし合うのを近藤が宥める


「あともう一つありますが、ちょっと見せれないので口頭で説明しますね」


さらさらっともう一つの能力を説明する


「世の中には不思議なこともあるんだなあ」

「こりゃあ信じるほかないんじゃねえですかァ?」

「にわかには信じがたいがな」

「いやー信じてもらえてなによりですなーなあ環殿!」


一件落着――と、思いきや


「だが、不法侵入と銃刀法違反の話は別だ」

「え」


環と棗の声がハモり、その動きを止めた


「ったりめえだろ」


無意識下に再び煙草に火を点け、紫煙を吐き出す


「……まあ確かにそれとこれは話別ですよねー」


環に苦い表情が宿る

彼女の言うとおり、これらは全く関係ない

おとなしくお縄につくしかないか、と覚悟を決めたときだった

どこからか鼻水をすするような水音が聞こえてきた


「ううっ……なんて可哀想な子達なんだ」


すべてに濁点を付けるような声で言ったのは今までここに来てからずっと黙っていたゴリ、ごほん、近藤だった

ずるずると大量の鼻水を垂らし、目からはキラリと光る涙が見える

近藤以外の全員が「は?」と声を揃えた


「まだこんなに若いのに苦労して……挙げ句の果てに全く知らない土地に放り出されるなんて……」

「お、おい近藤さん?」


何か嫌な予感がすると土方の第六感が警報を鳴らす


「よしっ! 俺は決めたぞトシ! 真選組でこの子達を養うぞ!!」

「ハァァァアアアア!? 何言ってんだ近藤さん! こんなどこの馬の骨とも知らねえ奴らを――」

「トシ! お前にはこのままこの子達を放っておくのか!?」


近藤が涙ながらに土方に訴えかけるのを見て、呆気に取られていた環だったが、ニヤリと含みのある笑みを浮かべた

そして、


「いいんです、近藤さん。別に働き口が全くないわけではありませんので。力仕事ができなくてもこの体一つさえあればお金などある程度なんとかなります。ですから……」


そこで環は言葉をきる

そして一筋、涙を流した

顔を覆い、僅かな隙間から棗に目配せをする

するとそれだけで環の思惑を察したのか、


「幸い、自分たちはまだ若いですか。買い手などいくらでも見つかるでしょう」


およよよっと少々大げさに棗は泣き崩れた

当然のごとく演技だ

だが、その道に少し通じている棗はその能力をいかんなく発揮する

自然すぎるそれにを見て更にぎょっとする土方

近藤なんかはもうボロ泣きで「トシィ……」土方に縋る

ダメもとで土方は沖田にヘルプの視線を送るも、彼はただニヤニヤしているだけ

山崎に投げかければ「俺はただの下っ端ですので」とあからさまに視線を逸らす


「なあトシィ……」

「えええい!! わかったよ!!」


もうどうにでもなれと投げやりにOKを出した

すると泣きべそかいていた大の大人がパアと顔が明るくなる


「ただし! タダで住まわせるわけにはいかねえ。おめえらにはしっかり働いてもらうからな」

「書類整理程度ならできます。でも前線でドンパチやるは遠慮願いたいですね。あ、あと家事も無理です(きっぱり」

「できれば自分はそういうデスクワークが苦手なので肉体労働の方をお願いしやす」


さっきの涙は何処へやら、けろりとそれぞれ主張する

その変わりように前言撤回したくなった土方だが、近藤が「さすがトシだ!」と子供のようにわしゃわしゃと頭を撫でてくる


「……あともう一つ。てめえらに人を殺せる覚悟はあるか?」


そう土方は二人の目を見て問うた

ここで働くということは多かれ少なかれ人を傷つける、最悪の場合殺すことになる

お前らにはその覚悟はあるか、と目で訴える

これぐらい脅しておけば、辞退するだろうと一人心の中でほくそ笑む土方だったが、


「もちろんです。このナイフ持ってる時点で覚悟は出来てますから」

「自分もっす。殺らなければ殺られる。そういう世界なんすよね?」


と、躊躇うどころか、即答した

少し巫山戯ているように見える二人だが、その瞳の奥にあるものは揺るぎない確固たるものだった

引き下がるに下がれなくなった土方に残された選択はただ一つ


「……ふん。いいだろう」

「うえーい! やったね環!! これで衣食住には困らないね!」

「いやーお世話になりますー」

「くそう……。うちは託児所じゃねえんだよ……」

「あれ? 今何か言いました? 託児所とか聞こえたような気がするんですけど? ええ?」


気がつけば、環が例の能力を使って土方の首をがっちり掴む


「……まあいい。男に二言はねえ」


棗の戦闘能力と判断力については数時間前に体で感じ、それは並の隊士より格段上だ

こいつは即戦力になると頭を回す土方

一見ただのひょろい環も実際の戦闘能力は未知数だが、彼女の瞳の奥にあったものが彼女が只者ではないということを物語っていた

ついでにこいつは総悟と同類だということを察した


「今からてめえ、五十嵐は一番隊隊士に。久遠寺は……そうだな、監察方に命じる」


こうして梓、楓に引き続き、環と棗も何とか住む場所を確保することができた


con gustoて
コン・グスト:曲の性格とはやさに合わせ





ネタ帳にちょろっとおまけ




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