ロマンなんて求めてないけど土下座再会は普通に引く

「すいやせんでしたアアアアアアアアアアア!!」


河上……えっと何だっけ?

半斉? 万斉か

その河上万斉とかいう通り魔と対峙したあと、あれよあれよという間に真選組に連れてこられた

そこでまさに地味という言葉を擬人化したような人に案内され、取調室に

で、扉を開ければ全力で棗が土下座してた

ふと数瞬、棗と目が合った


「……」


ぱたん

ふうとため息を吐く

あの通り魔のせいで相当疲れているんだ


「すみません。ほかお部屋は?」

「えっと、それは……」


扉を隔てた向こう側から「え! 今の環だよね!? ねえ!? 自分だよ、自分! 棗だよ」と聞こえてくる

うん

この声は紛うことなきあたしのしってる棗の声だ

どんな形であれ、棗が生きててよかった


「あのう……何か言ってますけど、もしかしてお知り合いですか?」

「いいえ。赤の他人です」

「ええ環!?」


さらに扉の向こうから色々と喚く声が聞こえるがあたしは何も知らないし聞こえない

「ここ以外ならどこでもいいので」と別の場所を促すが、


「知り合いならちょうどいい。まとめてやってやるよ」


と、隔てていた扉が開き、地味の人より少し上等な服を着た人が出てきた

「副長!」と彼が言うのでたぶんここで二番目ぐらいに偉い人なんだろう

にしてもこの人目死んでるわー

人のこと言えないけど

瞳孔パックリ開いちゃってさ

ああ、きっとこの先長くないね


「取調室なんていっぱいあるじゃないですか」

「こういうのはまとめてやったほうが手間が省けていいんだよ」


そっちの事情なんて知ったこっちゃねえよちくしょう

大体こっちは通り魔の被害者なんですけど

なんで容疑者みたいに取り調べ受けなきゃいけないのよ

まあ口にしたところでどうもないので言わないけど


「いいから入れ」


瞳孔野郎は顎で中には入れと促す

ちくちくと刺さる棗の視線もあり、しぶしぶ入った

狭い取調室には棗と瞳孔と同じ服を着た人もいた


「いやあ環ー! よかったあ生きてたんだな!! ああよかったあ〜」

「あたしもこんなところで会うとは思わなかったよ」


しかしまあ再会が取調室ってどうよ

ロマンの欠片もねえよ

まあロマンなんて全く求めてないけどさ

すると瞳孔がポケットからタバコを取り出し、吸い始めた


「ふーっ」

「うへえっげほっ! けむっ」


吐き出された紫煙が理由なく棗を襲い、むせる


「ああ。わりぃな」

「全然謝る気ないですよね!?」

「土方さん、別にアンタが肺がんで死のうと俺は全然構いやせんが、俺が酸欠で死ぬんでやめてもらえやせかねェ」


黙っていたもうひとりが注意するも瞳孔は聞く耳持たず

窮屈な取調室にあたし含め5人

部屋が白く煙るのも時間の問題だろうね


「主流煙より副流煙のほうが含まれる有害物質は多いんですよ? 健全な未成年のハイを真っ黒にするおつもりで? ええ?(黒」


ちょっとばかし圧迫するような声で言うと瞳孔は目を丸くしてあたしの方を見た

それに得意の笑顔(だいたいこの笑顔を浮かべると楓とかは黙る)で返せば、「す、すまねえ」と煙をもみ消した


「……今寒気感じたのは自分だけっすかね?」

「いや、俺もです」


青い顔をした棗に同じく青い顔をした地味の人が同意する

よく楓とか梓もそんなこと言うけど、そんな言葉一つで部屋の温度が下がるわけないって

仕切り直すように咳払いをして瞳孔が口を開いた


「とりあえず名前は?」


棗と一度顔を合わせてからおとなしく名乗った


「久遠寺環です」

「五十嵐棗っす」


立ちっぱの地味の人がバインダーを持ち、それに何か書いていく


「んで、てめえらは一体何もんだァ?」

「何者って言われてもなー。ちょーっと変わった一般人だよなー?」

「うんうん」

「強いて言うなら通行人Xっすよ」

「じゃああたしZ」

「おいYどこいった!? ってどうでもいい! てめえら真面目に答えやがれ!!」


ダンッと机を叩く瞳孔と目が合う

射抜くような視線にひええっと思うが、さっきの通り魔に比べりゃあ可愛い子供だな


「先にお前」

「え、自分?」

「そうだ。屯所にはどういった目的で忍び込んだ? 理由によっては今すぐここで斬る」

「ええそんな理不尽な! 目的と言われてもさァ……。だって落ちた場所がたまたまここだったことしか」

「落ちたァ?」

「見てないんですか? 自分、空から落ちてきたんですけど」


瞳孔は眉間に皺を寄せながら棗を睨む

棗は冷や汗だらだらだが、嘘は言っていない(あたしだって落ちてたし)


「まさか攘夷志士じゃねえだろうな?」

「じょういしし? 新手のライオンか何かですか?」


ポカンとする棗

どうやらこの世界のことはあんまり知らないみたい

純粋な疑問を浮かべる棗としばらく見つめ合う(笑)が、埒があかないと感じたのか今度はあたしに話を振ってきた


「てめえはなんであそこにいた?」

「もともとここに来る途中にたまたま」

「ほう? 『たまたま』にしては運が悪かったなァ?」

「ちょっと。あれ、あたしの仕業って思ってるようですけど違います。先客がいたんですよ」

「え、環なにかしたの!? ついに……」

「ちょっと待てぇい! 違うわ! むしろ巻き込まれたんだよ!! 被害者じゃボケェ!!」


『ついに』ってこいつはあたしをなんだと思っているのか

時間ができたら絞める

絶対絞める

というかここで一発殴りたい


「それで? 先客っつーのは?」

「暗くて顔は見えませんでしたが、あれは只者じゃなかったね。か、河上なんちゃらって名乗ってたと思う」

「――じゃあお前が持ってるその大量のナイフはなんだ?」


「えっ」と地味の人が声をこぼす

やっぱバレてたか……


「隠そうとしても無駄なんだよ」

「ほ、ほらあれですよ、護身用。最近何かと物騒じゃないですか。自分の身は自分で守らないとみたいな?」

「そういう問題じゃねえ! 立派な銃刀法違反なんだよ」


「そんなのただのこじつけじゃねえか」と声を荒げる

いいよなあ、基本武器がなくても戦える棗と楓は

余計に疑いの目を向けてくる瞳孔だが、正直そんなに睨んだところで何も出ませんよー

その時、密室に新たな風が吹き込んだ


「ようトシ! どんな感じだ?」


突然扉が開いたと思ったら立派なゴリラが入ってきた


「ここはゴリラも取り調べするんすか?」

「え、ちょ、この子いまゴリラって言った?」


もしかしたらこれが噂の天人かもしれない

ゴリラの天人(笑)


「この人はれっきとした人間だぞ?」

「え、マジ!?」


棗とハモる

いや、あれか

ゴリラと人間のハーフなんじゃ――


「ちがうから! 本当に人間だから!」

「ちなみにここで一番偉いのもこの人だ」


ゴリラがトップとは世も末だなと思った


a due
ア・ドゥエ:二つの楽器で




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