03



草木も眠る丑三つ時を過ぎた頃だった

三蔵たちを部屋へ案内し終わった水櫁は自室に戻らず、大広間にいた


「玄奘さんは気がついていたんでしょうか」


彼女の質問に答える声はない

ふうとため息をついたところで雨音が強くなった気がした

そして正座で少し痺れた足を上げ、ある場所に向かった


「今日はやけにうるさいですねえ」





同時刻、三蔵ははっと目を覚ました

……嫌な夢を見た

外ではまだ雨が降っている

きっと雨のせいだろうと、舌打ちを一つしてから寝なおそうとしたところ物音がした

反射的に銃を構える

隣で爆睡中の悟空を無視して、そっと扉の前に耳を立てる


ぎしっ……ぎしっ……


床の悲鳴が聞こえる

水櫁だろうか、しかしこんな時間に?

いや、これは違うと瞬間的に察知した

近づいてくる気配はそんな生易しいものではない

黒く濁った殺意にも似た、そんなもの


「……」


妖怪かもしれない、以前のことを考えれば

もしかしたらこの寺自体が妖怪の罠かもしれない

だとしてもそんなことはどうでもよかった

それならばただ殺すだけ

しかし思考とは反対に身体は酷く重い

尋常でない気に緊張しているのか

だんだんこちらに近づいてくる足音に息をのむ

チャンスは一度、奴が部屋の前に来た一瞬のみ


ぎしっ……ぎしっ……ぎしっ


無意識のうちに銃を握る手が汗ばむ


「(……来たっ)」


乱暴に扉を開け、目の前の奴に銃を構えた


ガチャッ!


だが、それと同時に目の前の奴も似たように何かを構えた

膠着状態の中、いつの間にか晴れていた空から差し込む月光が徐々に相手を浮かび上がらせる

三蔵に向けられたのは偶然か、三蔵と同じS&W M-10の色違いの黒

月光がすべてを暴いた時、三蔵は目を丸くした



「お前はっ!?」


と、タイミングを計ったように遠くのほうでガラスが割れる音が聞こえた


「水櫁!?」


三蔵がその音に反応した一瞬の隙を突いて相手は三蔵の銃を蹴りあげると、そのまま三蔵を無視して音がしたほうへ走り去ってしまった

飛ばされた銃を拾おうとすると、先ほどの音に八戒が出てきた


「何事ですか!?」

「知らん! こっちが知りたいぐらいだ」


蹴られた右手を摩りながら不機嫌な声で答えた


「ありゃー、こりゃあれじゃね?」


八戒の後ろから現れた悟浄は両手を耳に当てひらひらさせる

それがさす意味は言わずもがな


「なあ! 何かすっげえ妖気感じたんだけど!?」


最後に現れた悟空は少々興奮気味のようだ


「とにかく行ってみましょう」


八戒の言葉に満場一致で後を追いかけた


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