05



「最近やけに静かだなって思ったらこのザマだよ」

「これだけの人数を集めるのにどれだけ苦労されたんでしょうねえ」

「あたしの知ったことじゃないし。それに今に始まったことじゃないでしょ」

「ま、そういうことですので。すみませんね、夜分遅くに起こしてしまって」


先ほどから口を開けっ放しの三蔵一行に水櫁はぺこりと頭を下げた

一体どうなっているんだ、珍しく4人全員の心の声が一致した瞬間だった


「おや? みなさんどうかしましたか?」

「突然のことで驚いてんじゃないの?」

「ああ! そういえばあなたと八戒さんたちとは初対面でしたね」

「そういう意味じゃないから!」

「紹介が遅れてすみません。こちらが夕食の時話していた双蓮です」

「だから違うって!」

「え、何が違うんですか?」


再び漫才モードに突入

しかし三蔵一行はそれどころではなかった


「……お前らは一体」


前の双蓮が発していた殺意といい、今の戦いぶりといい、どう見てもただの人には思

えなかった

ようやくわれに帰った三蔵が口を開いたところで2人と4人の間に朝日のようにまぶしい

光が現れた

さすがの出来事に4人どころか双蓮たちも驚き、眼をつぶる


「何だ何だ!?」

「前が見えない!」


激しい光は数秒ほどで収まり、全員の目が正常に戻ったとき、目の前にいたのは透明な

布を巻きつけたおばさんだった

三蔵、悟浄、八戒はさっきとは違った意味で口をあけていた


「で、出たァァァァァァァァァァァ!!!」


あれ、これデジャブじゃね? と悟浄は独り心の中で突っ込んだ

とんとん拍子の出来事についに考えることを放棄

誰も彼もが言葉を失う中、水櫁は平然と口を開いた


「これはまた珍しい人が来たもんですねえ」

「久しいな、水櫁」

「本当何年振りでしょうか? 菩薩さん」

「え、ボサツ!?」


彼女の言葉に全員が疑いの目を目の前にいるおばさん……基、露出狂に向けた


「さあてな。忘れちまったなあ」

「相変わらずで何よりです」

「お前もな」


出現こそ驚いたものの、親しげに話す水櫁

どうやら2人は顔見知りのようだ


「え、ちょ、誰!?」

「あ、双蓮は初めてでしたね。彼……いや彼女? まあどっちでもいいですけど、この

人は慈愛と慈悲の象徴である観世音菩薩さんです」

「慈愛と慈悲というよりは自愛と淫猥のほうがしっくりくるんですが」

「同じく」


八戒の本音に三蔵と悟浄が激しく同意する


「マジで!? この露出狂と知り合いなの!?」

「本当は知り合いなんてなりたくなかったんですけどねえ。まあ腐れ縁といったところ

でしょうか」

「さすがに友達は選んだほうがいいよ……」

「今更遅いですよ」

「テメェなあ……」


菩薩という立場だというのに、言われ放題でわなわなと握る拳が震える自称菩薩


「ま、まあここは俺の寛大な心で許してやろう……」

「で、何のご用ですか?」


軽くスルーする水櫁にん、んんっ! とわざとらしく咳払いをしてから観世音菩薩は言

った


「さっそくだが、本題に入ろう。回りくどいことは性に合わん。単刀直入に言う、#水櫁

#、双蓮。たった今からお前らにはコイツらと一緒に牛魔王蘇生実験の阻止に向かって

もらう」

「は?」


またも開いた口が塞がらない、本日何度目か数えることも放棄

何をいきなり言い出すんだこの露出狂は、と二人の顔にでかでかと出ている

さすがの水櫁の表情が曇る


「何だ? 全員したボケェとしやがって」

「何勝手に決め付けてんだこの変態」


今まで黙っていた三蔵が口を挟む


「おいおい、勘違いしてもらっちゃ困るぜ。これは決定事項なんだ」

「決定事項が何だろうが俺は何も聞いていない」

「ンなこと言われてもなあ……」


居心地悪そうに頭をかく菩薩

三蔵の額には今にもブチ切れそうなぐらい血管が浮き上がっていた

まあそりゃあそうだわなと菩薩はつぶやく


「んまあ、四の五の言わず連れて行けよ」

「ふっざけ――」

「まあいいんじゃな〜い? これでむさくるしい男集団からおさらばできるんだし?」

「え、マジ!? 増えんの!? やった!」


反対する三蔵に悟浄と(特になにも考えていない)悟空は賛成の意を示す

悟浄に関しては下心丸だしだが


「ちょっとちょっと! 肝心のあたしたち置いて何勝手に話進めてんの!?」

「お前らに選択肢はない」

「ふざけんな似非クソ菩薩!」

「誰か似非だ! れっきとした菩薩だっつーの!! クソもつけんな!!」

「詐欺にもほどがある!! つーか、誰がこんな金髪不良鬼畜川流れの江流と一緒なの! 

真っ平御免だね!!」

「んだと? 誰が不良鬼畜だって? この鳥の巣馬鹿男女死ね紫苑」

「馬鹿でもないし男女でもないからバーカはてめえだコンニャロー」


ガチで火花を散らす三人の間に水櫁、八戒が間に入った


「まあまあ落ち着きましょうよ」

「三蔵も銃をしまってください」

「これが黙っていられるか!」


タイミングばっちりとそろう双蓮と三蔵


「ところで双蓮と玄奘さんはお知り合いなんですか?」

「は?」


と、またも声が揃う


「今仲良さそうに話してたでしょう」

「はあ? バッカじゃないの!? 眼科行ってこい!!」

「さっきの夜這いだって玄奘さんの元に行ったんじゃ? それに玄奘さん、双蓮のこと

『紫苑』って呼んだじゃないですか」

「……っ!」


すると三蔵が気まずそうに舌打ちをした

双蓮もつられて視線を逸らす

水櫁だけへらへらと笑っているが、他3人だけ何が何だか分からず顔を見合わせてい



そんな3人に丁寧に説明し始める水櫁


「『紫苑』って言うのは双蓮の昔の名前ですよ」

「そういえば彼女も三蔵のこと今『江流』っつたな」

「え、じゃあマジで知り合い!?」

「……そうだ」

「残念ながら」


双方の口からため息が漏れた


「ああーそうだよ。この生糞坊主とあたしは同じ寺院で育ったんだよ」

「えぇっ!?」

「あーやっぱりそうだったんですねえ」


まさかの事実に驚きを隠せない三人、水櫁だけは納得したように手を打った


「……おーい、俺のこと忘れてないか」

「あ」


みなさんすっかり忘れていたようです

再び咳払いをして仕切り直す


「なあにお前にとって悪い話じゃないぜ、双蓮」

「どういうこと?」

「聖天経文だ」


双蓮の表情が一瞬で変わった


「聖天経文、だと?」

「そうだ。どうだ行く気になっただろ?」


驚愕を隠せない双蓮をみてニヤニヤを隠せない菩薩

すべて思惑通りと言わんばかりの表情だ


「行く」

「即答かい!」

「聖天経文が絡んでいるんなら話は別。と、いうわけだから連れてけ江流」

「ああ? 誰がテメェみたいな奴を」

「……別にいいんだけど? 幼少期のあーんな恥ずかしいことやこーんな恥ずかしいこと

がばれてもいいんならね!」

「え、なになに? 三蔵の恥ずかしいことって!」

「実はな、江流のやつ――」

「あああああああああわかった!! わかったから!! 連れて行ってやるから言うんじゃ

ねえ!」

「わかればいいんだよ、わかりゃあ」


畜生、今度覚えていろよと三蔵は心の中で誓った


「いいんですか?」


八戒が三蔵に問う。


「死んでも死なねえから問題ない」

「そりゃあどう意味だこの似非くそ坊主。もう一回言ってみろ、マジでばらすぞ」


ようやくひと段落したと思ったが、そうでもなかった

三蔵と悟浄以上の犬猿の仲と言っても過言ではないだろう


「ところでそれって自分も行かなきゃいけないんですか?」

「当たり前だろ。最初に言っただろうが」

「あーやっぱり? でもそういうわけにもいかないんですよねー」


眉をひそめながら水櫁は大木に近づき、手を当てる

その姿はまるで親が子供を撫でるようだ


「その木がどうかしたんですか?」

「自分がここにいるのはこの木を守るためなんです。先ほどみたいにいつ妖怪たちが襲

ってきてもいいように」

「何かこの木にあんか?」

「まああるんですけど、一言では説明できないので割愛させてもらいます」

「おいっ!」


と思わず悟浄は反射的に突っ込んだ


「それも問題ない。コイツは俺が預かってやる」


そう言って菩薩は水櫁同様大木に近づき手を当てた

すると菩薩が触れたところから光が溢れだす

やがてそれは大木全体を覆い隠すと


「まぶっ!」


完全に包まれたところでより一層強い光を発した

パッと光が消えたあとには大木は何処にもなかった

残っているのは根こそぎ取られた穴だけ


「すっげー! これがテレポーションってやつ!?」

「ちげーよ」


目を輝かせる悟空に悟浄はすかさず突っ込んだ


「これなら問題ないだろ?」

「全くあなたと言う人は無茶をしますね……。あーはいはい、わかりました、自分の負

けです」

「っつーことで改めてこいつらを連れて行け。実力はさっき見たとおりだ」


四人の脳裏に浮かぶのは妖怪を圧倒する二人の背中

申し分ないぐらい即戦力になる


「ッチ」


この場合の舌打ちを了承を示しています、と八戒が翻訳した


「しかしジープにはもう誰一人乗れませんよ?」

「ああ、それなら大丈夫です」


そう言って水櫁は右手で空を縦に裂いた

すると、その裂いたところがパカリと割れ、淡い青のスクーターが出てきた


「種も仕掛けもありませんよ、なーんて」

「すげぇぇぇぇぇ!!」

「一体どうなってるんだ?」

「簡単にいえば結界の境界を無理やり捻じ曲げてるんです」


悟空が目を輝かせて盛り上がる一方、双蓮の顔は沈んでいた


「聞くだけ無駄だと思うけど、誰が運転すんの?」

「あなたに決まってるじゃないですか」

「ですよねー☆」

「機械音痴ですから」


とりあえずこれで移動手段の問題は片付いた


「これでもうすることはねえな」

「これ以上あってたまるか」

「それじゃあな! 途中でくたばんなよ!!」


そう言って観世音菩薩はまた鋭い光に包まれて消えていった

ようやく嵐が去ったと全員が安堵の息を漏らす


「……とりあえず改めて自己紹介しましょうか?」

「それがいいですね。自分は水櫁といいます。双蓮の保護者みたいなものです。こ

れからよろしくお願いしますね」

「保護者じゃない!」

「僕は猪八戒です」

「はいはーい! 孫悟空! よろしくな二人とも!」

「俺がセクシー担当の悟浄。これからよろしくな子猫ちゃん?」

「セクシーじゃなくてエロ痴漢担当の間違いじゃねえのか?」

「何といっても歩く十八禁ですからね」

「お前らな……」

「さっきも言ったけど、名前は双蓮。前は紫苑だけど双蓮って呼んでよ。そこの金

髪ハゲとは腐れ縁ってところ」

「金髪ハゲって思いっきり矛盾してるだろ」

「細かいところ突っ込むな」

「玄奘三蔵……普通に三蔵でいい」


こうして新たに二人加わって、計六人は西へ向かうのだった


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