Nowhere...?跡地 | ナノ






足りない


――ら……はら


「おい、切原っ!!」

「うぉおい!?」


ふと我に返った切原は驚きのあまり椅子から転げ落ちた


「ってててて……」

「ったく、なにやってんだ。全国大会終わって気が緩んだんじゃないか?」


はあとため息をついて担任はまた黒板のほうへ向き直った

俺はというと椅子を元に戻して座る

今日もまた特別補習だ

大会前はさすがに免除されたが、大会が終わった途端、それはもう容赦なく俺を襲った

相変わらず補習の内容はわからないし、冷房もついてない

ただひとつ変わったことといえばやけに静かなことだ

そう、あいつがいない

ちらりと横の席を見れば空席

初めから誰もいなかったように静かだ


「おうらっ! よそ見してねえでちゃんと板書しろ!」


と、見ていたらチョークが飛んできて見事額に命中した

いつもならここでバーカバーカと飛んでくる罵声も今日はない

何だか居心地が悪かった

特別補習後、あいつがいない理由は何となくわかっていたが、先生に一応聞いてみた


「ああ七森? あいつならしばらく休みだとよ。って、四条が連絡してきた」

「……」

「なんでもご家族が亡くなったそうでな。まあ当然っちゃあ当然だよな」

「……そうスっね」


それだけ言うと先生は職員室へ帰っていった

俺もこのあと抜かりなく部活があるため、ペンケースなどを片付ける

でもやっぱり隣の空席が気になってしかたなかった

次の日も、その次の日も七森は来なかった


「って、ことなんすけど、俺、どうすればいいっすかね……」


はあとため息をつきながら、休憩時間中柳さんに相談してみた

きっとこの人なら的確なアドバイスをくれるだろうと思ったからだ


「そうだな……まずお前はどうしたいんだ?」

「は?」

「具体的にどうしたいと聞いているんだ」

「いや、それがわからなくて聞いてるんスけど……」

「お前は七森にどうしてほしいんだ? せっかくちょっかい出す奴がいなくなって練習にも打ち込めるようになったはずなのに、まるで逆だ」

「うっ」


練習に熱が入ってないのはお見通しのようだ


「そ、そうなんすよ。せっかく煩いのが消えたのに……。まるで調子が上がらねえんスよ。なんか複雑っス。どうしたい? と聞かれれば当然、あいつには元気になって……欲しいっス」

「ふむ……」

「二人とも何話してるんだい?」


と、ここでひょっこり現れたのは幸村部長


「実はだな、赤也が――」


部長に耳打ちをする柳さん

すると一瞬だけ幸村部長の表情がおかしなことになった


「なるほどね。つまり赤也は彼女がいなくてさみしいんだ」

「ち、違うっス! べ、べつにさみしいとかじゃなくて、ただ何となくあいつがいないと張り合いがないっていうか、物足りないっていうか……」

「赤也、世の中ではそういうのを『寂しい』というんだぞ」

「うぐっ」

「さらに言えば、赤也は彼女に――」


と、いうところまで言いかけて柳さんが部長の口を塞いだ

そして再び何か耳打ちをする

せっかく――とか鯉が来た――とかよくわからない言葉が聞こえてくる

一体なんなんだ


「……で、俺はどうすればいいんスか」

「そうだね……。結局今俺たちにはただ黙って待つことしかできないと思う」

「ただ待つだけって……!」

「いいかい赤也。これは彼女自身の問題だ。彼女をなんとかしてやりたいという気持ちはわかるが、これは他人が簡単に口を出していい問題じゃない」

「で、でも……!」

「俺たちは黙って待って、いつも通りに彼女迎える。ただそれだけだよ」


幸村の威圧感についに切原は黙った

するとポンッと頭に軽く叩かれた


「大丈夫、彼女ならきっと戻ってくるよ」

「部長……」


俺は目尻に浮かぶ涙を止めることができなかった







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