Nowhere...?跡地 | ナノ






見舞い


放課後


「行ってくるわ」


最後の授業を受けた――と言っても半分以上寝ていたが――有梨は素早く帰り支度をして言った


「いってらっしゃーい。今度はバス乗り間違えないようにね」

「駆け込み乗車にはお気を付けてくださいってか? もうそんな失敗は繰り返さねえよ」


それじゃあとお互い軽く手を振りながら有梨は教室を出た

最寄りのバス停に行くには西門が一番近い

靴を履き替えて西門へ向かう

五分もしないうちにバス停に到着した


「えっと病院行きは……まだあと5分あるか」


時刻表と携帯の時間を確認した

あと五分程度ならベンチに座って立ち上がるのも億劫なので立って待つことに

時間通りにバスが来た

もともといる客も、立海から乗る生徒も少なかったおかげで座ることができた

あとは終点の病院まで寝るだけだ

まだ寝足りないと有梨はあっという間に眠りに落ちた

はっと目が覚めると終点間近


「いいタイミングで起きたなあ」


大きなあくびをしながら体を伸ばす

乗客ももう数える程しかいない


「次は――」


バスは静かに停車した

運賃を払い、バスを出た

熱気が襲ってくる

だが、それも病院に入ってしまえば問題はない

人で混むロビーを抜け、エレベーターに乗り込み、3階のボタンを押す


チーン


エレベーターを降り、まずはナースステーションに顔を出す


「すみません。優雨いますか?」

「あら有梨ちゃん今日も来てくれたのね」


出てきてくれたのは若い女性の看護師


「優雨くん、今日もお姉さんが来るの楽しみにしてるわよ」


いいお姉さんねと看護師は言った


「ありがとうございます」


礼儀正しく腰を曲げ、弟の病室へ向かった

がらがらとわざとらしい音と共に入れば、弟がいた

一人部屋にしては広く、あまり色がないところが余計物寂しさを際立たせている

有梨の弟、優雨はベッドの上で静かに寝ていた

来客用の丸椅子を持って近づく

呼吸器をつけてはいるが、その顔は穏やかだ

そっと髪に触れれば


「おねえ……ちゃん?」


ゆっくりと有梨と同じ色の瞳が開かれる


「悪い。起こした?」

「ううん。何となくおねえちゃんがきたんだなってわかったから」


笑顔を見せる優雨に有梨も自然と笑顔になる

優雨はそばにあったベッドのリモコンを操作して起き上がる


「起き上がっても大丈夫なのか?」

「昨日今日は気分がいいんだ」

「馬鹿野郎。そういうのを一般的に死亡フラグって言うんだぞ」

「わざとだよ」

「こいつめ」


おでこをぐっと押すと優雨は痛いよとはにかみながら言った


「ねえねえそういうのは後ででいいから今日もお話してよ」

「そうだなあ。じゃあ今日はこの前のわかめが俺のアホらしい挑発に乗って椅子から転げ落ちた話をしようか」


それから二時間たっぷりと有梨は学校での出来事を優雨に聞かせた

それは面会時間が過ぎても続いた

優雨の夕飯が運ばれてきても看護師はただ「相変わらず仲がいいのね」と笑顔で言っていくだけだ

ちょっとしたコネのある有梨は面会時間を過ぎても追い出されないのだ

有梨も下の購買で買ってきたおにぎりを片手に夕飯を取る

さすがに七時を回るともう時間ですよと注意される


「それじゃあもう時間だから行くな」

「また月曜日楽しみにしてるね」

「おう。じゃあな」


そう言って有梨は病室を出た

家に帰ったのは八時を過ぎてからだった

まだねる時間帯ではないのにリビングは真っ暗だ

識はたぶん自室

電気を付け、どさりとソファに身を委ねる


「顔色あんまよくなかったな」


優雨の顔が浮かぶ

口では元気と言っていたが、体は正直だ

ずっと青白い顔をしていた


「あいつ、また痩せたな」


ちらりと見た腕は骨と皮だけのように見えた


「何で我慢するんだ」


どこかやりきれない気持ちが湧いてくる

優雨だけではない

識にしたってそうだ

ソファから身を起こし、カウンター越しにある台所へ行く

そこに料理をした形跡はない

むろん洗い物をしたあともない


「あいつまた食べてないのかよ」


今月ずっとだ

有梨が病院で夕飯を家でとらない日は決まって識も食べない

何かが変だと思っていたのだ

このクソ暑い時期に前までは半袖だったのが何故か長袖に逆行した


「ったく、どいつもこいつもオレに隠しやがって」


舌打ちの音が妙に大きく聞こえた







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