Nowhere...?跡地 | ナノ






視線


本格的な夏が到来し、ジリジリとアスファルトを焼く音が聞こえてくる

外気温に反比例するように教室では冷房がつき、むしろ寒いぐらいだ

氷帝との練習試合の一件以来、有梨たちとテニス部の距離はぐっと近づいた

というよりはあっち側が近づいてきたというほうが正しいかもしれない

一時はファンクラブとのいざこざで昼食を一緒に食べるということがなくなっていたが、最近はほぼ毎日のように代わる代わる誘われ、一緒に食べている

識いわく特に断る理由もないからだそうだ

有梨はというと色々な人からおかずを奪い取るのが楽しいからという

今日は仁王と丸井の通称3-Bペアと


「相変わらず美味そうな弁当だな!」

「言っときますけど何一つあげませんから。あ、でもそっちのから揚げくれるって言うんでしたら梅干と交換してもいいっすよ」

「どう見ても割合が合わねえだろぃ!」


識のお手製ハンバーグ(昨日の残り)を虎視眈々と狙う丸井に取られまいと距離を取る有梨


「あの二人仲いいですねー」

「なんじゃ羨ましいのか?」

「仲良きことは美しきこと哉ってやつですよ」


そう言って識はプチトマトをぷすりと刺す


「毎日三食作るのは大変じゃろう?」

「そうですね。健康面考えてメニュー考えるのもそうですし、何より食材の買い出しが重たいし財布は軽くなるし面倒です」

「散々じゃな」


くつくつと仁王は笑う


「あ、でもまあ」


ああやって美味しそうに食べてくれるのは嬉しいですけどねと付け足した

漫画のようなお弁当争奪戦を繰り広げる丸井と有梨を見る識の目はとても優しかった


「まるで母親じゃな」

「は?」

「いい嫁さんなれるぜよ」

「どうですかね」


識はわざとらしく肩をすくめる


「それにしてもあの二人、いちゃいちゃしすぎじゃないですかね」

「放っておき。俺らは無関係じゃ」


本当に遠くから見ればただのカップルにしか見えないのはきっと識だけではないはず

本人にいえば容赦なく殴られるに決まっているので口にはしないが

刺したままのトマトをようやく口に運び、咀嚼する

口の中に少し酸っぱい味が広がった

ふと、視線を感じた


「どうかしました?」

「ぷりっ」


果たしてその言葉にどういう意味があったかは知らない

ただ何となく、何となくだが、それには特別な意味があるような気がした

一方、有梨と丸井はようやく戦争を終えた


「全く、毎回毎回しつこいんすよ」

「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のものなんだからいいだろぃ」

「どこのジャイアンすか」

「というわけで隙ありっ」

「あ、ちょっ」


すっかり終わったものだと安心しきっていた有梨はやすやすと丸井にハンバーグをとられてしまった


「んめえ!」

「そりゃあ識のお手製っすからね」

「本当料理上手なんだな」

「ただレパートリーが少ないのが難点ですけど」

「いやあ、中二でここまで作れりゃあ十分じゃね?」

「そうですね。というわけで先輩のから揚げいただき」

「おいっ!」







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