Nowhere...?跡地 | ナノ






練習試合G


「あれ、どうかしました?」


声をかけたのはベンチで太ももに肘を付き、頭には白いタオルをかぶった人物


「あ、いえ大丈夫です」


そう言っているが、顔は正直ではっきり言って先ほどの有梨と同じぐらい青い

それにどこか右手首をかばっているように見える


「とても大丈夫そうには見えませんけど……」

「いえ、本当に大丈夫なので放っておいてくれま――」

「あ、ちょっと待っててください」


鳳の言葉を最後まで聞かず、識はあるものを取りに走った

識の正直な感想としては彼は識に対して壁を、警戒している

識だけではない、有梨や立海のメンバーに対してもそうだ

あくまで#香織#が思っただけで、本人はそういうつもりはないかもしれない

でもそういうことに敏感な識はわかっていて、あえて行動に出た

急いで部室に戻り、空いているロッカーから救急箱を取り出し、ついでにささっと一人分のドリンクを作った

もしかしたらもういないかもしれないと思ったが、彼はまだそこにいた


「右手」

「え、?」

「右手、捻ってますよね?」


彼の目が一瞬だけ丸くなった


「湿布貼りますから右手出してください」


少し嫌そうな顔をしたが、彼はおとなしく右手を差し出した

識は膝を付き、そっと湿布を彼の腕に貼った

それから少し大げさかもしれないが、テープを貼り、取れないように軽く包帯を巻く


「はい、オッケーです。あ、あと顔色が悪いので一応水分補給もしておいたほうがいいですよ」


出来たての冷たいドリンクを彼は遠慮がちに礼を言った


「もし、まだ痛むようでしたら一度病院に行かれたほうがいいですよ。それじゃあ」


やることはやったのでそのまま立ち去ろうと思ったら、待ってくださいと引き止められた


「何ですか?」

「あ、あの、俺、二年の鳳って言います。その、色々とありがとうございました!」

「いえ気にしないでください」

「すみません。俺、あなたのこと誤解してたみたいです……。本当すみませんでした!」

「そ、そんな本当に気にしてないので」


礼儀正しく頭を下げる彼を見て識は何故かこちらが申し訳ない気持ちになった

話を聞いてみると、氷帝ではテニス部に対する愛が半端ないそうだ

それ故、女子同士の争いも激しく、あからさまに優しくされると裏になにかあるんじゃないかと疑ってしまうらしい

最初は冷たい印象が強かった鳳だが、こうして話してみると実はすごく優しくていい人だということもわかり、同時にあの濃いメンバーでは色々と苦労しそうだなとも思った


「今更ですけど、同い年ですから敬語使わなくてもいいんですよ?」

「そういう四条さんこそ」

「ふむ。それじゃあお言葉に甘えて。今日はもう右手は使わないほうがいいよ。手首とは言え、酷使するともうテニスできなくなるかもしれないから」

「そうですね。あ、俺のはもう癖なんで勘弁してくださいね」

「あ、そうなんだ」

「長太郎ー、こんなところにいたのか」


声がする方を見れば


「宍戸さん!」

「お、四条も一緒か」

「あ、どうも」

「ちょうど良かった、お前も相方に探されてたぞ」

「え、マジですか」


どうせ有梨のことだろうからまだ気分が悪いのも残る中、探しているのだろう


「それじゃあ鳳くん、お大事に」

「はい。本当にありがとうございました」


救急箱を片手に識は宍戸と鳳に別れを告げた







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