Nowhere...?跡地 | ナノ






練習試合E


有梨が芥川たちとご飯を食べてる時、識は一人教室棟寄りの木陰で音楽を聞きながら黙々とご飯を食べていた

日差しそのものは強く肌を焼くように暑いが、木陰はよく風が通り、心地よいそれが髪を撫でる

少ないお弁当を食べ終わって一息ついていると遠くの方からこちらに向かってくる影があった


「……隣、いいですか」


現れたのは中学生とは思えないほど大きかった

確かトーナメント中も試合がなければほとんど跡部の傍にいた人で名前は……覚えてない

識は特に断る理由も見つからなかったので、どうぞと言った


「……」

「……」


二人して木陰でちょこんと体育座りをする

草木が揺れる音がやけに大きく聞こえた

特に話しかけてくるわけでもなく、彼はただ静かにどこか見つめている

その間、識は必死に隣にいる彼の名前を思い出そうとしていた

三分ほどかけて同じ二年の樺地くんだということを絞り出した


「えっと、何か用ですか」


同学年にも関わらず彼の圧倒的な大きさに思わず敬語になる


「いえ、特に」

「……そうですか」


また二人の間に沈黙が落ちる

かと思いきや、樺地がこんなことを言いだした


「……強いて言うなら一人寂しそうだったので」


思わぬことを言われた識は珍しくその驚きを表に出した

感情をあまり表に出さないようにしていたが、意外と顔に出ていたのかと少し後悔

たとえ出ていたとしても常人が気付けるほどではなかったはず

もしかしたら彼は無表情なだけに他人のそういうのには敏感なのかもしれないと思った

不本意ではあったが、自分の存在に気づいてくれたことに少なからず識は温かいものを感じた


「ありがとうございます」

「ウス」


ほのぼのとした雰囲気の中、こちらに向かってくる影がまたひとつ

青い帽子をかぶっている


「よう」

「あ、どうも」


名前は思い出せなかったが、三年だということだけはギリギリ覚えていた


「珍しいな、樺地が跡部のそばを離れるなんて」

「ウス」

「そういえばさっき跡部が探してたぞ」


その言葉を聞くと樺地はのそりと立ち上がり、識に一礼してから跡部のもとへ行った

それを見送るとふと帽子の彼と目が合った


「わ、悪いな邪魔して」

「いえ、別に特に何か話してたわけでもないので」

「そうか……」


樺地のときとは違って何だか居心地の悪さを感じた

それは向こうも同じようですぐに視線を逸らされた


「えっと、あー……」

「四条です」

「あ、そうそう四条だった。悪い」

「いえ、わたしも先輩の名前覚えてないので」

「宍戸だ」

「宍戸さんですか。それで、わたしに何かまだ用ですか?」

「いや、特に用というわけではないんだが……」


妙な物言いをする宍戸に識は頭にハテナを浮かべる


「お前は俺とか見ても騒がないんだな」

「は?」


さらにハテナが大きくなる


「なんですかそれ、自意識過剰ってやつですか?」

「ちがっ! そういうのじゃなくてなんつーか……不思議なやつだなお前」

「まあ変というわれるよりはマシですね」

「ははっ、ホント不思議なやつだぜ」

「そこ笑うところですか」

「細かいこと気にすんな」


一人笑う宍戸に識は少し機嫌悪そうに眉をひそめるのだった







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