Nowhere...?跡地 | ナノ






球技大会D


控え室には既に対戦相手がいた

人付き合いが苦手な有梨はなるべく話しかけられないに距離を置いて座った

公式の大会ではないのでさほど緊張はしたなかった

ところが、


「七森有梨さんですよね?」


距離はそれなりにあるのにいきなり話しかけられた

少し挙動不審になりかけたが、そうですと何故か敬語で返事をした


「私、次の対戦相手の本多美奈子と申します」

「ご丁寧にどうも……。七森有梨、です」


話しかけられて内心ドキドキのバクバクの有梨

ちらりと美奈子のほうを見るも視線があってしまい、すぐに逸らした

ちょっとしか見えなかったけど結構美人さんなんだなー

なんて他人ごとのように思う


「七森さん、おりいってあなたに相談したいことがあるんです」

「相談? 俺にですか?」

「私、実はテニスに関してはそれなりに自信がありまして」

「はあ……」

「それでこの試合で私が勝ったらテニス部の皆さんから手を引いて頂けませんか? その代わりこちらが負ければそちらには一切手を出しません」


普通なら驚くような言葉だが、有梨はまゆ一つ動かさず、別にいいですよと快諾した

むしろその態度に美奈子が驚いていた


「そんなあっさり言ってもいいんですか?」

「別にこっちから手を出してるつもりはないんで。むしろ向こうから突っ込んでくるような?」

「幸せ者ですね」

「傍からみればそうですけど、こっちからしてみればただの迷惑以外何者でもないんですけどね」


こっちとら好きで手を出しているわけではない

いや、切原の反応が面白くて出している節はあるが、大概あちらからである

そして試合は五分前へ


「それじゃあそろそろ行きましょうか」

「そうですね」

「先の約束、お忘れなきよう」

「個人的にはすごくどうでもいい約束ですけど」



その頃の観客席

識は人気の少ない一番見晴らしのいい教室から見ていた


「相手はあの本多美奈子か。何もないといいけど」

「その確率は極めて低いが?」

「前例がある――って、はいィィィィ!?」


気が付けば隣に柳がもとからそこにいたかのように立っていた


「……なんでいるんですか」

「四条、そう警戒するな。もともとは精市たちがとっていたはずの場所が手違いで人で溢れすぎてな。どこか見れる場所がないか探していたらここにきていただけだ」


涼しげに言う柳だが、識はあまりいい顔をしていない


「気分でも悪そうだな」

「いえ別に」


心の中としてはあまり柳という人間を好いてはいなかった

嫌いなわけではないが、こう言葉にしづらい苦手さがあるのだ

気づかれないようにそっと距離を置く


「先輩はどちらが勝つと思いますか」

「そうだな。本多の実力はなかなかのものだが、七森には及ばん」

「ずいぶんはっきり言うんですね」

「俺のデータに間違いはないからな」


そういえばこの人超がつくほどのデータマンだったと今思い出した


「本多の実力は確かに全国で通用するレベルだ。だが、七森はさらにそのひとつ上を行っている。部活に入っていないのが惜しいくらいな」

「有梨は部活に入らないって決めてるんです」

「部活ではないとするとサークルか何かか?」

「まあそんなところです。あ、でも主に兄から教わってましたね」

「ほう。その兄はよっぽどの強者と見受ける」

「公式の大会にはあまり出てないのではっきりした実力はわかりませんが、有梨があれだけですからきっと相当なんでしょう」


何て話しているうちに試合は始まった




1セット目は美奈子のサーブから

パコンといい音を立てて放たれる

鋭いコースをついてきたサーブだったが、有梨は軽々と打ち返す

2、3回ほどラリーが続いたところでまず有梨は初ポイント

と、そのまま続いていき最初のセットも有梨が落とした


「やはり圧倒的だな」


柳が言う

だが識は何も返さない

黙って見ていた

見守るのではなくただ見ていた

その後、2セット目有梨が落とし、3セット目はミスをうまいこと誘発され美奈子にわたってしまったが、4セット目で決着がついた

周りからは歓声が上がった


「……私の負けですね」


終わりの握手をするとき歓声の中、周りに気づかれないように美奈子は言った


「なかなか強かったです」

「ご冗談を。本来の力の三分の二も出してないくせに」

「あ、バレました?」

「打ち合っていてすぐその違和感に気がつきました」


まだまだ甘いなと有梨は独り言を漏らす


「これでもうあなたがたには手を出しません」

「意外と潔いいんですね」

「自分から言い出したことですから。自分の発言には責任を持ちませんとね」


どこか腑に落ちないような美奈子だったが、負けは負けだ


「別に先輩可愛いんですから正面からいけばきっと――」

「それこそご冗談を。敵の情けは受けません」


とそれだけ残して美奈子は控え室には向かわずそのままテニスコートを後にした







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