俺が恋煩いとか、笑うだろ?






「俺が恋煩いとか、笑うだろ?」
「…なんでそう思うの」
「俺が誰かをすっ好きとかおかしいし、」
「人を好きになることは、自然なことだよ」
「で、でも俺なんかが好きになる資格なんかねえよ…」
「そんなものに資格が必要だと思ってるの?馬鹿だなぁ兄さん」
「バカって言うなよ…」
「馬鹿だよ。ほんとに馬鹿」



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寝顔を見に行くことが日課になっていた。疲れを溜め込んだその顔を哀れみを込めて優しく撫でてみるが、まったく起きる気配はない。寝ている時ですら気を張っているようで。眉間のしわを伸ばすように眉の間をぐりぐりと押すと、うぅんとだけ唸って寝返りをうった。

俺のたったひとりの、可愛い可愛い弟。

しわの寄った額にそっと口付け、自分のベッドへ戻った。


朝、目が覚めるとすでに雪男の姿はなくて、ちょっとだけ寂しい。ちょっとだけ。

ちょっとだけなはずなのに、鼻の奥がつんと痛くなって視界が霞んだ。

朝ご飯を食べに行こうとドアノブを握る。キンと冷たくて吃驚したことと、今の自分の気持ちみたいな温度だな、なんて思う感傷的な自分に情けなくなって涙が出る。
一度流れ落ちた涙は止まることはなく、ドアノブを持ったまま座りこんで、ただただおさまるのを待っていた。


分かってるんだ。これは俺なんかが抱いちゃいけない感情で、叶うこともない。




笑うだろ?

そう自嘲気味に言った俺に、雪男は馬鹿だと答えた。雪男の言うとおり、俺は馬鹿だよ。一番好きになっちゃいけないやつに恋をしたんだ。

想いを伝えたらきっと雪男は俺から離れていく。同じ部屋で過ごしていても、雪男は遠い所にいってしまうだろう。とうてい近づくことなんて出来ない、遠い遠いどこかへ。


そしたら今みたいに名前を呼ぶことすらできなくなってしまいそうで、不安でしょうがない。

だから、忘れるんだ。ずっと馬鹿でいい。ずっと雪男と一緒にいられるなら、鎖と鍵でしまい込んでしまおう。



ぐる、とドアノブがまわって勢いよくドアが開いて、思わず手を離してしまったせいで思い切りおでこを打ちつけた。

「わあっ、兄さん何してんの!」

驚いた声を上げた雪男は、俺の顔を見るなりさらに険しい表情になり、気まずい空気が流れる。俺はといえば雪男に張り合うくらい、いやそれよりもっと驚いて言葉がでなくて、口をぱくぱくするしかできない。まさか帰ってくるなんて思ってなかったから。

慌てながら、なにかあったの?なんて心配そうに言うもんだからまた涙がじわじわと出てくる。

「なんでもない」
「なんでもなくないでしょ」
「目にゴミが入っただけだっつの」
「そんなに鼻真っ赤にして?」
「い…痛かったんだよ!」


はあ、と溜め息をつく雪男にきゅっと心臓が締められる。また呆れられたかも、なんて考えていると、ふわ、と雪男のにおいに包まれた。
泣いたせいで頭はぐわんぐわんと揺れていて、腫らした目のおかげで視界は狭い。たぶん、これは幻覚とか俺の妄想とかそんな類の思い違い。

「兄さんはとんでもなく馬鹿だよ」
「だから、馬鹿…て、いうなよっ」

また溢れでた涙と嗚咽でうまく喋れない。

「毎晩毎晩、僕が気づかないとでも思ってたの?」
「え、何のはな…し…」

(寝顔を見るのが日課になっていた)

「今日なんて、寝不足なんだよ」
「おま、起きて…?」

なんだかうまく頭もまわらない。

「だから兄さんは馬鹿って言ったんだ」


どうせ1人で悩んでたんでしょ?
人を好きになる資格がないなんて見当違いにも程があるよ

そう言って、額に唇が触れる感触。「おかえし。先越されるのは嫌いなんだ」
「え、なっ、ああ?」

言葉にならない音しか出てこなくて、すごくもどかしい。

「…じゃあ、お先に」
「は、何が…」


唇に、唇が合わさる感触。


すでに思考回路はショートしてしまっているようだ。

もしかしたら、これ全部夢かもしれない






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恋に溺れる彼のセリフ
title by 確かに恋だった







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