(Sun)



多分、初めて見かけたのは学校帰りによった本屋。
街ですれ違ったこともあったし、つい最近バスで一緒になった。
有名な進学校の制服を着てるくせに派手な髪にピアスでそこらの不良みたいな見た目。
そいつが俺のバイト先でオムライスをたのんだのが心底おかしかった。
だってあの見た目でオムライスって可愛いすぎんだろ?

今日もまた、ノートを広げたそいつに注文を取りに行った。
「ご注文はお決まりですか?」
マニュアル通りのセリフに、
「ナポリタン」
いつも通りの意外なチョイス。こいつ絶対エビフライも好きだろうな。


だいたい週2のペースで俺の働くファミレスに来て、注文した食べ物が届くまで難しそうな問題集とノートを広げていることに、さらにギャップを感じる。ここ最近の俺の楽しみはもっぱらこいつの観察だ。

「すんません、水ください」
「…はい、少々お待ちください」

一瞬目があって、どうしてかドキリとした。うきうきしながら水を持っていき、注ぐ。
「ありがとうございます。」
ただそれだけの言葉にあと数時間あるバイトを頑張れる気がした。


午後11時にやっとバイトが終わり、帰ったら何をしようかとあれこれ考えつつカバンに手を突っ込んで自転車の鍵を探す。しかしどんなにカバンを探っても見つからない。
落としたのかとロッカー辺りを探してみるがどこにもなく、もしかしたら自転車につけっぱなしにしたのかと思って見に行ってもそこに鍵はなかった。

「まじかよ、どうしよ…」
「さっきからキョロキョロしよってどうかしたんか?」

後ろから数時間前と同じ声が聞こえて、あまりに急なことにちょっとだけ驚いてしまった。

「いや、自転車の鍵なくしちまってよ」
「…一緒に探しちゃるわ」
「え?いいっていいって!ありがとな、気持ちだけ貰っとくよ。」
「ほうか、でもどうやって帰るんや?」
「あー…歩いて帰る」
「なら、俺のに乗ってくか?」
「いやそんな遠くねえし。なんか悪いな」「ええから乗ってけ」

だからいいって、と言おうとしたけどそいつが真っ直ぐ俺の目を見てくるから。
思わず折れてしまった。

「…じゃあ、お願いします」




自転車にふたり乗りしている間、ほとんど会話はなかった。
聞きたいことはたくさんあるのに声にでてこなくてひたすらもどかしいばかりで。

結局、名前すら聞かないままに家まで送り届けられてしまった。
俺としたことが、不覚だ。


明日からまた始まる退屈な授業とバイト漬けの1週間にうんざりしながらも、どこかわくわくしている自分に気付いた。
俺の中で、あいつの存在が少しずつ大きくなっているらしい。









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -