紅茶にもジャムを


なあ、奥村。
おまえ菓子は作れるんか?



そういえばこの前そんなことを勝呂が言っていたっけ、と思い出した。
修道院にいた頃にみんなの誕生日にケーキを作ったりはしていたが、専門はあくまでも料理。お菓子作りの経験はあまりなかった。


「お菓子かあ…」

作っていったら勝呂は喜ぶかな。
いや、喜ばねーはずがない。
「久しぶりにちょっと作ってみっかな」

実に単純な考えだと自分でも思う。ぜってえ美味しいって言わせてやる!



まずは、何を作るろうかと頭を悩ませる。
結果、クッキーよりもケーキのほうが腕前を見せつけれる気がするという理由で、失敗なしのパウンドケーキに決定した

「薄力粉に砂糖とバター、卵…あ、いちごジャムいれよ」


分量をはかり、バターを溶かしてオ-ブンを余熱。
最近していなかったお菓子作りに、だんだんとわくわくしてきた。いちごの甘いにおいに幸せな気分になって、思わず鼻歌がもれる。


ピリリリリ。
さあ今から混ぜようかとしていた時に、小さめの機械音が耳に届く。
わたわたと携帯を放り投げていた椅子まで走りディスプレイを確認すると、勝呂竜士と表示されていた。

「もしもし、今から行ってもええか?」

「あ?いーけど、どしたんだよ」

「別に。どこにおるんや?」

「寮の調理室っぽいとこ」

「ん、わかった」

ピッと通話が切れる。
これから勝呂が来ることに少し胸が躍る。よし頑張ろうと意気込み、ボウルに卵を割り入れた。


カシャカシャと小気味よく音を立て卵と砂糖がふわふわと膨張していくさまに、燐の背後からおおーと驚嘆の声が聞こえた。

「うおっびっくりした!はええな!!」

振り向くと、そこにはやはり勝呂が立っていて。

「電話した時もう寮の前におったからな」そう言って勝呂が笑う。
きゅん。

(うわ、きゅんってなんだ!)


「卵やかそなに膨らむもんなんやなあ」

「すげえだろ、てかむこう座ってろよ!集中できねえから!」

勝呂はあーはいはいとピラピラ手を振り、どかっと椅子に座って携帯を触りだした。
簡単に会話が途切れてしまったことに寂しくなるが、またカシャカシャと泡だて器を回し始める。

材料を全て混ぜ終わり、後は出来上がった生地を型に入れるだけ。
うきうきとボウルを持ち上げた時だった。カシャン。
部屋にシャッター音が響く。

は、と勝呂を見やると携帯を構えて、にやりと笑った。さっきの笑顔のようなものではなく明らかに意地悪をしている顔で、かあっと顔が熱くなり危うくボウルを落としてしまうところだった。

「おま、ちょ、何やってんだよ!」

「いやあ、あんまり楽しそうにするさかい、思わず」

「思わずじゃねえよ!」

また、カシャンと一枚。
恥ずかしさのあまり生地を投げそうになるのを我慢して型に流し込んだ。

うだうだと言い合いをしながらも、無事にオーブンへと収めることができてほっとする。



焼き上がるまであと40分。
それまでケーキの焼ける甘い甘い香りと一緒に、2人は甘い甘い時間を過ごすことになるのだろう。














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