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01
1部



「え?チャンピオン?」

食べながら話したせいで煎餅の欠片が口からぽろっと落ちた。おっと、このままにしとくとこの部屋にもまたコラッタが出てしまう。カーペットの毛に埋もれる大きめの欠片を摘んで近くのゴミ箱に捨て、細かな欠片を無造作にパパっと手で払った。

それにしたって、チャンピオンとかいう聞きなれない単語を聞いた気がするが…。
机の真向かい側でぼりぼり煎餅を頬張る近所の少年をジっと見つめた。

「えっマジで?」
「うん」

コクリとうなずき、口をモゴモゴさせる少年―レッドはほら、とテレビを指差した。陽気な司会者とカントー地方のチャンピオンだと有名なワタルさん、そして、今まさに目の前でボリボリと煎餅を食べるレッドがそこには映し出されていた。

「ひぇ」

他人の空似かと思えば、テレビに映るレッドの肩の上にはいつも通りピカチュウが可愛らしくそこにいる。間違いなく本人である。
いやまさか。街角インタビュー的なやつだろ?そうだろ?驚きのあまり目を白黒させながらテレビに鼻がつくのではないかと言うほどに詰め寄る。そしてついにテレビの中のレッドはドアップでカメラに寄られ、こう紹介されたのだった。

『新チャンピオン、ここに誕生です!』

テレビの中では前チャンピオンと紹介されるワタルさんが何やらトロフィーのようなものをレッドに手渡しして、周囲の人たちは盛大に彼を、レッドを祝っている。
無表情でぺこりとお辞儀するレッド。ゆっくりとテレビから視線を、煎餅を食べる目の前のレッドに移せば、彼は膝の上にテレビの中で受け取っていた光り輝くトロフィーを抱えていた。そのトロフィーの上には煎餅の欠片が落ちている。ああ、そんなんじゃトロフィーが泣くぞ。

「マジか」

どうやら、この男の言うことは本当らしい。
ついさっきチャンピオンになった、というのは。


俺空即興曲。


「レッド、そんなに強かったの?えっ」
「うん、ごめん」

対して悪びれる様子もなくまた新しい煎餅を口へと運ぶレッドの姿に開いた口は閉まらない。ここ最近ずっと旅に出たまま中々帰ってこないと思えば、チャンピオンになったとか。面白いジョークかと思えば本当だとか。

「笑えない」
「笑わなくていいよ」
「あ、夢?これ俺の夢?」
「現実。ピカチュウ、電気ショッ…」
「いやっ!!大丈夫!夢じゃない、現実だ、わかる、わかるぞ俺には!」

すこぶる元気そうにピカチュウは、その両頬にある電気袋をバチバチと音を鳴らしながら俺に詰め寄る。まだピカチュウもレッドも小さい頃、何度か電気ショックを受けたことがあるがあれは強烈だ。願わくばもう2度と味わいたくない。許して下さいとピカチュウの好物でもあるオレンの実を棚から引っ張り出して遠慮がちに手渡す。ピカチュウは満足げにそれを受け取ってもぐもぐと口に頬張った。

「いまピカチュウの電気ショック受けたら多分俺死ぬよ」
「10万ボルトよりは弱くするから大丈夫だよ」
「何が大丈夫なのか」

それにしたって、まさかあのレッドがチャンピオンとか。えっこわ。怖すぎる。
過去いくつもの悪行を思い出して身体を震わせる。善悪がわかる前とはいえコラッタの尻尾を振り回したり野生のポッポの足に紐をくくりつけお散歩していた、あのレッドがチャンピオン。軽く目眩がしたが、チャンピオンになるためにこいつはいろんな努力をしていろんな体験をしてきたんだろう。ならば素直に祝福してやらねば、とレッドの頭を撫でた。

「すごいなお前。よく頑張ったじゃん」

「すごい上からだね、タキ」

「少しくらい格好つけさせてくんね?・・・あ、そうだレッド・・・いや、チャンピオンよ」

それやめて、と間髪入れず文句を言うレッドにごめんなさい、と素直に謝った。

「俺の相棒なんか最近おかしいんだけど・・・見てくれね?」

ここんところずっと元気ないの、かわいそす。
そう言ってポケットから一つモンスターボールを取リ出す。
赤い光りに包まれながらボールの中から出てきたのは、俺の最愛の相棒ウインディたん。

俺の相棒にしてはイケメンな奴だが最近どうも元気がない。
以前は毎日毎日飽きもせずこのせっまい部屋の中を走り回って散らかしてたのに、最近ではずっと一箇所に留まり続け床を掘り続けている。
そのおかげで今では横30センチの縦20センチの大きめの穴があいた。これがまた意外とデカくて、辞めさせようにも噛まれるし吠えられるし、結局ウインディたんの宝物が埋まってたりする。
全くこんちくしょう、どうしてくれんだ相棒め。

「どう?なんか変な病気とかもらってない?」

「これただの肥満」

「マジか」

「身体動かして痩せさせなきゃ病気かかる。旅、いってらっしゃい」

「マジで」

そういうことで俺と俺の相棒、ウインディ(肥満)は旅に出ることになったのでした。

・・・どういうことでだ!!
問答無用で外を指指すレッドから逃げるようにウインディの背中に回ろうとするが・・・あれ、ウインディたんが俺の背中に回ってるよどうゆうこと。

「ジョウトから攻めていけ」

「そしてこの命令形である」

なんでカントーじゃダメなの。
そう聞き返すとレッドは馬鹿なの?と言わんばかりに目を細め首を傾げた。

「僕と戦ってもタキは勝てない。惨敗するタキなんていつも見てるからつまんない、勝てるようになってから挑んで」

「なんて辛辣!大分刺さる!でも確かに仰る通り!!」

「ジョウトはウツギ博士。その人が有名だから」

だからその人の下へ行け、と?

「僕しばらく帰ってこないから。タキ、がんばれ」

がんばれないから。
珍しいレッドの微笑み姿に喉まで出かかったセリフをつい飲み込んでしまう。
あー、もう。かわいいなこんちくしょ。

「・・・行ってくる」

信じられないようなものを見るような目つきのウインディに、仕方ないだろと口を尖らす。レッドに頑張れって言われちゃ頑張らないわけにもいかないし、それより何よりも相棒が病気にかかる方がよっぽどまずい。
それでもどうしても外に出たくないのかウインディは隣で唸り声を上げるため仕方なくボールにおさめた。

そして、向かうのは―・・・ジョウト地方。



(・・・勢いで出てきたけど、)
(俺なんも準備してなかった)
((俺、無事に生きて帰ってこれるのかな・・・))



end



マサラタウン在住のタキさんはみんなのお兄さん
馬鹿で阿呆の子だけどそれでもお兄さんなのです。




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