10 お題
10.メール マサキ
ブブ、とマナーモードにしていた携帯がポケットの中で揺れる。 現在時刻真夜中の12時半。どうやら気がつかない間に寝てしまっていたらしい。 机に伏せていた身体を起こし、携帯を開けばそこに映し出される差出名はマサキ、の三文字で少しばかり目を見開いた。
『明日の天気は晴れ』
だからなんだ。 絵文字も顔文字もついていない、実にシンプルな一行に一人突っ込みを入れる。 そもそも明日とは、12時を回っている今日なのか。それとももう一度12時を回ったその日なのか。 はっきりしない奴だな・・・。 寝起きのはっきりしない脳内でグルグルとそんなことを考えて、携帯を閉じた。 もう寝よう。コイツに返事することなんかない。 ガシガシと痒くもない頭をかき回して腰掛けていたイスから立ち上がった。
「・・・ん、だよ?」
ブブ、と机の上に置いたばっかりの携帯がまたもや震え出す。 早く開け、見ろ、といわんばかりに携帯は騒々しく机の上で振動を繰り返しているのに本気でため息を吐き出した。
『ハナダではイベントが1時から開催』
「だからなんだ」
ポツリと溢した声は思っていたよりも低かった。 またも送られていたメール内容は知りたくもないイベント情報で。 ブチリとどこかの血管が切れる音が聞こえてきたような気がしたが無視だ無視。 携帯を雑に折りたたみ、片手に持ちながら部屋の明かりを消す。 カチリなんて小気味良い音を立ててスイッチは落ちると部屋の明かりは消え、何も見えなくなった。 記憶だけで布団の敷いてある場所まで歩いていけば足にやわらかい生地が触れた。よし寝よう。
「ふ、ぁあ・・・」
コイツが何をしたいかわかっている分、こんなメールほっぽっといて早く寝床につきたかっただけなんだ。 掛け布団をめくって身体をそこに滑り込ませる。 既に他の人間の体温で暖められている布団の中はこの季節には厳しく、そして気色悪いものだった。
「もうちょっと寄れよ、マサキ」
「タキ、いくらなんでも酷いわ」
グス、と鼻を啜る音がすぐ至近距離から聞こえてきてその反対方向に身体を反転させる。 それでもうざったく腰に腕を回して抱きついてくるコイツ、どうにかならないだろうか。
「暑い」
重たい瞼を閉じながら口だけ動かして伝えれば俺の腰を抱く腕により一層力が篭ってつい目を開いた。 コイツはそんなにも俺の睡眠を邪魔したいのか?そうなのか?
「タキは、わいのこと嫌いなん?」
ポツリとつぶやくように吐き出された言葉。 俺は真っ暗な闇をジイと見つめた。
「わいはこうやってタキに触れてるだけで胸がドキドキするんや。・・・わからへん?」
「あのな、マサキ」
ありえないほどに強く締める腕に、息が詰まる。これ冗談じゃなくやばい奴だろ。 振り絞るように、声を出すと思っていたよりも弱弱しくてかすれた声が出てきた。
「俺もお前が好きだから、明日楽しみにしてるんだけど。眠かったら楽しめないだろ?」
「・・・タキ、」
少しだけ緩んだ腕にホっと息を吐く。 回された腕に自分の手を重ねて、瞼を閉じた。
「好きだから、寝かせて?」
卑怯なのは、重々承知
好きの一言で喜ぶお前も、俺も単純だよな、
END
預かりシステムの発案者マサキ。
→トウヤ
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