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2
番外編



「ウインディ、かえんぐるま!!」

「ピジョット!空を飛ぶ」

げえ、と声を漏らす。
なんか飛行タイプって卑怯じゃね?
バッサバッサ羽ばたく音を立てながら空中を舞うグリーンのピジョットを、俺とウインディ二人して見上げる。
ウインディに関しては完全にかえんぐるまが不発だったわけで、やり場のなくなってしまった身体にまとわりつく炎が消えていくのを名残惜しいと言わんばかりに鳴いた。

俺のウインディたんかわいそす。
余裕の笑みを浮かべるグリーンと頭上を旋回するピジョットを忌々しく思うもそこはトレーナーの技量だ。なんとかして打開策を探すが火炎放射の無駄撃ちくらいしか思い浮かばない。あと狙うとしたら、地上に降りてくるタイミングだ。

「ウインディ、おまえバークアウト出来たか?」

出来るはずがないだろう、と言いたげな瞳にまあそりゃそうだよなと思う。ウインディたんに出来るとしたら良くて鳴き声、吠えるあたりだ。
野暮なことを聞いた事を謝ろうとしたところでハッとする。まて、ピジョットどこいったよ。
慌ててグリーンを見ると、グリーンは不敵な笑みを浮かべ、そして攻撃の合図を下した。


「いまだピジョット!!」

「えっあっ、ウ、ウインディ・・・!かえんほ、」

かえんほうしゃ、と言い終える前に辺りには鈍い衝突音が鳴り響いた。
土埃が立ち込め辺りがよく見えない。
それから数秒後。土埃の中見えた影は一つだけだった。


「―・・・ま、どんまいだなタキ」

「ウ、ウインディーっ!!!」

完璧にノックアウトされているウインディに駆け寄り半べそをかく。その大きなモフモフの身体で地面に横たわる姿はまるで死に間際の獅子。
くそう、よくやったよお前は。

「ウインディ死ぬなよっ!!」

「死ぬほどボコボコにするわけないだろーが、気がつけ」

余裕の笑みを浮かべ、ピジョットを撫でるグリーン。
確かに死ぬほど本気でかかってくるとは思えないが、あのグリーンだ。容赦なくこちらを潰しに来たとしてもなんらおかしくはない。それにウインデイたんピクリともしないし。

「俺んち来いよ、治療道具あるから」

「うっ、さすが博士の孫…」

「かんけーねえからそれ。トレーナーだったら当たり前だわ」

ボールの中にピジョットをしまい、顎で付いて来いと指示するグリーンにはっとする。
俺も続いてウインディをボールの中におさめて、慌てて先を歩くグリーンの後を追いかけていった。


◆◇◆



「はあ?死んだ振り?」

「そうだっつってんだろ、気がつけ」

傷薬を使ってもらい、足に包帯を巻かれたウインディは今やぴんぴんと動き回っている。
この短時間で瀕死状態に近かった彼がここまで回復するとは到底信じられない、と口にしたところ目の前の男は突然言い始めたのだ。
死んだ振り、と。
何その新しい技名。俺知らないよ。

「どう考えたってあのくらいの技で瀕死になるとは思えないし、そもそもちょっと痛めつけてウインディの方から降参させようとしてたんだ。そんな瀕死になるほどこっちも本気じゃない。結論死んだ振り」

まあ正確には瀕死の振り、だけどな。
そういいながら治療グッズを片付けていくグリーンをポカーンとしながら見つめる。
当の本人、ウインディたんはといえばグリーンの部屋を駆け回りはしゃいでいる。
確かにグリーンの部屋に上がったのは久しぶりだもんな・・・じゃなくて、いくらなんでも元気すぎだろ。
もしかしてお前もっと戦えたんじゃね?え何死んだ振りって本当?ちょっとそれありなの?

「つうかいい加減ウインディしまえよ!俺の部屋破壊する気か!」

「ああ、悪い悪い」

確かにこのまま外に出しっぱなしだとウインディは好き勝手やるからな。配慮が足りてなくてすみませんねえ、と嫌味を言いながらもピコーンと音を立てながらウインディをボールの中にしまいこんだ。
若干汚れてしまったが、まあ俺の部屋に比べればまだマシだろ。早速歯型のついたリモコンを発見してしまい、見つかるとなにかと煩いからな。とそれを背中にさっと隠した。


「で、言うこと聞いてくれんだよな?俺の勝ちだし」

「あー、はいはい。なんですか、ピザですか?寿司ですか?肉ですか?」

てか今日一日言うこと聞くって割と長いよな、普通願い事一つ叶えるとかだろ、いやそれだとどこのお星様だってはなしか、いや待って俺負ける確率の方が普通に高かったんじゃね?もしかしてグリーン勝つのわかっててこの条件提示したの?計画的犯行?

満足気なグリーンの顔を見るとため息が漏れてしまう。
今更どうこう言うつもりはないが、ただの引きこもりVSトレーナーなんて勝敗は目に見えてるじゃないか。
くそ、なんでそこに気がつかなかったんだ俺のばか!

「まあ・・・まず最初に、今日一日俺の奴隷になると約束しろよ」

「ど、奴隷ってお前なあ・・・。もっと優しくオブラートに包んだ言い方できねえのかい」

奴隷、奴隷ねえ。その言葉選びに冷や汗が出る。一体なにをさせる気なのか、いつの間にかすぐそこまで近づいていたグリーンに心臓が跳ねた。
えっ、こっわ。

「真剣勝負に勝ったんだ、それくらい当たり前だろ。お前こそどんな神経で安請け合いしてんだか」

グリーンの目が獲物を定めたかのように鈍く光る。
だから、お前こそなんでそんな本気なんだよこえーよ。グリーンの表情に言いようのない不安感を感じて尻で一歩後ろへ下がった。


「わかった、わかったけどお前真剣勝負なのに手抜いたって自分で言ってたよな?」

「手を抜かない勝負と真剣勝負とはわけが違う。
俺は勝つために真剣になったぜ?負けなきゃいいんだから」

まあ、確かにおっしゃるとおりですわ。
返す言葉も見つからず黙りこめばグリーンは勝ち誇ったような顔で笑った。
悪い顔。そう思ったのも束の間、グリーンは俺の目の前に座り込むとおもむろに手の甲を差し出してきた。

「はい、誓いのキスして」

「…はあ?」

「俺はグリーン様の奴隷です。はい、リピートアフタミー」

「…いやいや、まてまてまてまて。たかが勝負だろ?なにをさせようと…」

「ほお、約束破るのか。マジでがっかりだな、失望したよ」

わざとらしくため息をつくグリーン。そこで、何かが弾け飛んだ。

差し出された手を、ぐいっと引っ張り肩を抱く。そして近い距離のまま手の甲に舌を這わせた。

「なにが欲しい?俺がなんでも叶えてやるよ、グリーン様」

もうこうなったらやってやろうじゃねーか。ドン引かれたって辞めてやらない。今に見てろよグリーンめ。
ひきつる笑みを浮かべ宣戦布告するように言ってやればグリーンは一瞬呆けたような顔をして、ニヤリと笑った。
それが開始の合図となるのだった。




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