皆さん、本日は男子も女子もみんな待ちに待ったバレンタインです。
今日、一世一代の勇気を振り絞り告白を考えていらっしゃる女子の皆さんは目の下にうっすらと隈をつくり、男子の皆さんはあえてバレンタインの話には触れないが、チラチラと女子に視線を送ったりと教室内の雰囲気はいつもより浮ついているように見えます。

私もその雰囲気に呑まれた一人である。

お相手は久々知兵助君。

一年生の5月頃に恋に落ち、約三ヶ月程前に友人という競争率の高い地位を手に入れ先月、今世紀最大の奇跡が起き、隣の席を掴み取った。
そして今日、更なる奇跡を求めてこのイベントに参加することを決めたわけなんだけれども、
お相手はあの久々知君。

勿論、単独でこの戦に参加するからには敵は多い。
そして、去年の様子から予想するに久々知君の貰うであろうチョコは尋常じゃないほどの数になると思われる。
よって、普通のチョコだと埋もれる可能性が高い。かと言って奇をてらい過ぎてもドン引きされるというマイナス面が生じる。
と、いうことは"その他"に分類されない様な、且つ引かれない程度の変わったものを渡さなければならない。


で、用意したのはこの豆腐。


これは事前に尾浜君経由で手に入れた情報に基づき私なりに考えた最高の一品。



…って、さあ、


いくらなんでもこれはないだろ。なんで豆腐にしたし!確かに追い詰められてはいたけどさあ!これはないだろ!激しく昔の自分を殴りたい…。
どっかにタイムマシンないかな。


「あっははははは!まさか本当に豆腐持か!」


「確かに久々知君が豆腐を死ぬほど好きだからって豆腐を買ってきた私も相当の馬鹿ですけれどそこまで笑う事もないと思います」


「はははっ、ゴメンゴメン!だってまさか本当に買ってくるとは思わなかったからさっ!」



あー腹筋崩壊する、と目に溜まった涙を拭いている尾浜君を冷めた目で見る。



「あのねえ、そこまで笑いってますけどね、このお豆腐は以前から久々知君が一度でいいから食べてみたいとおっしゃっていた幻のお豆腐ですよ?」


「なんか、誕生日プレゼントみたいだね。てか、なんで敬語?」


「…緊張すると敬語になるんです。しょうがないじゃないですか!これぐらいしなきゃ、私が本気で好きだって事が伝わらないかもしれないって考えたら…」

「だってさ、兵助ー」



「えっ、」


ニヤニヤと私の背後に視線を送る尾浜君につられて振り返れば、無表情でそこに立ち尽くす久々知君がいた。
てことは、今の話を聞かれたってこと…?あああああ、絶対引かれた。終わった、完全に終わった。
グッバイ、私の青春。



短かった青春に別れを告げていると、ドサリと重い物が落ちる音がしてビクリと肩が震えた。どうやら久々知君の肩から鞄が落ちた様なのだけれど、久々知君の様子がおかしい。微動だにしない。
と、次の瞬間


「く、久々知君……?」


「俺も、」


「え、」


「俺も好きだ」





ガバッ



「えっ、ちょ、〜〜〜っ、!!」



久々知君に抱き着かれた。
え、えええ。
ちょ、展開がいきなりすぎってかえええええ!!






















今日は約50年前に製菓業界の陰謀によって日本中がチョコ塗れになる日、そうバレンタインだ。

世間一般の常識とやらでは、この日に女子達からチョコを貰う事は大変名誉な事であるらしい。俺ならチョコより豆腐の方が嬉しい。

つい数年前までは食べるのにも運ぶのにも困る様な物だとばかり思っていたが(そう言ったら八にはキレられた)去年、その認識を覆される事になった。

苗字名前さん
あれは去年の5月頃の事だ。高等部に上がるにつれ、外部受験で入った人が増えた。そして、いわゆる肉食系女子と呼ばれる人種も増え、いろいろと悩んでいた時に苗字さんに出会った。ちょうど文化祭でやる劇の役決めをしていて、クラスの女子は俺を主人公に推しやがった。俺は勿論そんなものやりたくなかったが、拒否しても押し通されそうな雰囲気で俺は半分諦めかけていた。その時、苗字さんは俺の心を悟ってくれたのか、巧みな話術でくじ引きという提案を出し、窮地から救ってくれた。
そして、人生初の恋に落ち、いろいろと勇気を振り絞り、勘ちゃんの助けも借り、約三ヶ月前に友人という地位を獲得、つい一ヶ月前には隣の席(少々、くじに細工をして)という超VIP席を手に入れた。

そして、本日
今年こそは苗字さんからチョコを貰えないかと期待しているわけである。

ああ、でも、まともに話せる様になったのは三ヶ月前だし、大体名前さんが俺の事を思ってくれているという確証もない。
今年もあの食いきれないチョコに埋めつくされるのか……

苗字さん、チョコじゃなくていいから豆腐くれないかな……

ダメだ、最近、不運が重なって豆腐を食していないせいか思考がおかしい。イソフラボンが不足している。
仮に苗字さんがチョコをくれるとして、それが豆腐になっているだなんて有り得ない。

ガラリと教室の扉を開き、自分の席に向かう。
勘ちゃんいいな、朝から苗字さんと喋ってて。購買行って豆乳でも買って……







「…緊張すると敬語になるんです。しょうがないじゃないですか!これぐらいしなきゃ、私が本気で好きだって事が伝わらないかもしれないって考えたら…」









「だってさ、兵助」



え、


ちょっと、苗字さん今なんて言った?

俺の事「本気で好き」って

それより、苗字が豆腐持って…



ガバッ



「く、久々知君……?」


「俺も、」


「え、」


「俺も好きだ」





言葉よりも先に身体が動いた。




















こんなハッピーエンドもありかもね








「(俺も好きって……豆腐?私??)」


「(あー…ずっと抱きしめてたい……)」





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久々知は普段理系男子だけど、突然の時には頭よりも身体が動いてると美味しい^^


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