「庄ちゃ〜ん!」
「・・・・・」
まるで某猫型ロボット漫画の主人公の様に泣きついて来たのは高等部の鉢屋三郎先輩だった。
僕達が通う小・中・高一貫のマンモス校であるこの大川学園は、小・中・高それぞれの生徒会が合体して学校運営を任されている。現に、こうやって中等部の生徒会室に入って来ているのがいい証拠だ。
そして、この先輩がこんな風にくる理由は大体予想がつく。
「また苗字先輩ですか?」
「聞いてくれるのか庄ちゃん!」
「(聞いてなくても話すくせに……)」
別に話を聞くのはいいが、セーターの裾で涙を拭くのは止めて欲しい。この前なんかビロビロになったセーターのまま一日過ごすはめになった。
この前は鉢屋先輩の無自覚な一言が原因だったし、その前なんか鉢屋先輩の悪戯が原因だった。今回はいったい何をやらかしたんだろうこの先輩は、
「名前のやつ酷いんだ!私が今日この日、このバレンタインという行事をどれ程楽しみにしていたのかわかってた上でアイツ何したと思う!?私の目の前で雷蔵達にチョコを渡した上に俺には何渡したと思う!?」
「何をいただいたんですか?」
「遅刻の切符だよ!アイツ、わざわざ生徒指導の封筒渡して来やがったんだ!そりゃ、昨日の遅刻が原因だったんだけどよ、いくらなんでも酷くないか!?」
そう言って鉢屋先輩は生徒指導と書かれた封筒を破り捨てた。
僕はさっ、と箒とちり取りを取り出し、その紙屑達を集める。
「先輩、捨てるならゴミ箱にしてください」
「庄ちゃんったら相変わらず冷静ね」
「ああ、それと一つ思い出したのですが、この間の生徒会の後に苗字先輩とお話していたんですが、先輩怒っていましたよ」
「は…?なんで?」
「鉢屋先輩が空き教室で女子生徒と抱き合っておられたとか、」
「私がか!?そんなことするわけが……あっ、」
どうやら思い出したのか、鉢屋先輩の顔はどんどん青ざめていく。僕はというと、オチが見えてきたので鞄から教科書を取り出し予習を始めた。
「違う!あれはあっちが勝手に抱き着いてきて、『これで最後にするから』とかなんとか…」
「だろうと思って僕もそう言いました。そしたら『それはわかってるけど……ね、?とりあえず全力でぶん殴っても許されると思うんだ』って」
「ねえ、庄ちゃんどんな言い方したの?名前の全力って結構痛いんだよ?」
実はこの鉢屋先輩、苗字先輩と付き合い始める前はちょっとした有名人で、学園中の女子だけでは飽き足らず大学生などなりふりかまわず遊び歩く様な人であった。
なので、苗字先輩と本気で付き合い始めた今でも鉢屋先輩のところには先輩を忘れきれないという女性がたびたび尋ねてくる。
「苗字先輩のあの目を見たら流石にフォローしきれませんでした」
「うわあああ!わた、私はもうどうしたら……!!」
「うわっ、ちょっと腰に抱き着かないで下さい!」
顔から出るもの全てを出し、腰に抱き着いてきた先輩を必死に剥がす。流石にそんなものを拭かれたら困る…!
そんな攻防を繰り広げているとガチャリと扉の開く音がした。
「三郎ー、ここにいる?しょうがないから持ってき……ふーん」
「名前!この前のは違うん だ!!あれは「そうなんだ」
「は?」
「前から節操がないとは思ってたけどそっちの趣味まであったとはね……」
「えっ、えっ??」
「…………ハァ、」
全く気づく様子もない先輩に思わずため息が漏れた。
全く、こっちの身にもなって貰いたい。
「流石にかわいそうだったかなって思って持って来たんだけど……いらないかぁ」
「え、は、ちょ、」
「じゃあね黒木君。また今日の生徒会でね」
「はい、また」
「ちょっと待てって、名前!!」
君にはとある疑惑が掛かっています
「鉢屋先輩、結局原因はなんだったんですか?」
「庄ちゃんが言ってた放課後事件とひまだったからって」
「(…似た者カップル)」
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