「おお、」




朝学校に行き、いつもより心を弾ませて下駄箱を開けると可愛らしくラッピングが施してある小さな箱が入っていた。
本日は、日本中が少しだけふわふわした雰囲気になる聖バレンタインデー。
学生の、それも非リア充に属する男共は貰えないとわかっていながらも机やロッカー、下足箱を少し期待しつつ開くのだ。
しかし、本当に入っているとは……正直、嬉しさよりも動揺の方が大きい。ドキドキしつつ、リボンを解き箱を開ける。





「おっ、手紙も入ってる」




【ずっと前から好きでした】





名前は…あれ、書いてねえし。
箱の裏や考えられる場所を見てみるが差出人の名前は書いてなかった。



「はーち!おはよう!」


「うおお!?……なんだ、勘ちゃんか。びっくりした…」


「なーに、下駄箱の前で固まってんの?」




突然肩を掴まれ、振り返ればニコニコと笑う勘ちゃんがいた。慌ててチョコレートを鞄に仕舞い込むと勘ちゃんはキョトンとした顔で首を傾げた。



「いや、なんでもないんだ。それより、今年も大量だな!」


「これは多分、義理チョコとか世話チョコばっかりだよ。俺生徒会だし」


「ふ、ふーん…」



だとしても、その量はないだろ。
勘ちゃんの鞄には溢れんばりのチョコが詰め込まれている。
下駄箱でこんだけって事は教室はもっとすげーんだろーな。
自分は…と考え出してやめた。毎年毎年、雷蔵や三郎の光景を見ては悲しい思いをしているばかり。

……と、一つ思い出した。
そーいやあ去年、机の中に三郎の悪戯でチョコレートが入っていた。嬉々として開ければ中身はビックリ箱。驚きひっくり返ったのを散々笑われた。



「三郎のヤツ………」



こんな手の込んだことしやがって……。
完全に腹の立った俺は、話しかけてきた勘ちゃんを無視して階段を駆け上がり、教室に走った。





「三郎!!!」




声を張り上げ、教室を見渡すが三郎の姿はなかった。
クソッ、まだ来てねえのか…って事は昨日仕掛けたってことかよ。今回だけはマジ許さねぇ!!
スポーツバックを乱暴に置くと隣の席の名前が驚いたように肩を震わせた。



「おはよう、竹谷くん。どうしたの朝から……」


「なにもかも三郎のせいだ!」


「(また悪戯でもされたのか…)ふ、ふーん……」


「あああ!腹立つ!!」


「こんな時に聞くのもあれなんだけど、下駄箱にチョコ…「それだよ!」


「は?」


「三郎のヤツ、俺の下駄箱にチョコレート入れやがったんだ。それもこの日に!めちゃくちゃ可愛いヤツ!しかもご丁寧に手紙まで付けて!!今日という今日はぜってぇ許さねえ!!!」


「………あー、それは…ははっ、」


いきなり話をぶった切り、しかもマシンガントークを始めた俺に名前は乾いた笑みを零した。
そして、一瞬悲しそうに目を伏せて突然席を立った。




「あー…、私やっぱ目頭が熱くて胸が苦しくて頭痛が痛いから保険室行ってくるわ」


「頭痛が痛いって、…そりゃ重症だろ。頭が」


「うるせぇ!バルス!」


「なんで!?」



突然の滅びの呪文に驚いていると、名前と入れ違う様に雷蔵と三郎が登校してきた。
俺は机を飛び越え三郎に詰め寄る。



「よう、八。朝から元気だな」


「"よう、八"じゃねえよ!三郎、たちの悪い悪戯しやがって……」


「は?」


「チョコだよ!去年に引き続き今年までやりやがって…もう許さん!表に出やがれ!!」


「一人で出ていろ阿呆。それに今年は何もしていない」


「嘘つけ!しかもこれ…チョコに見せかけた練りきりじゃねーか!!」



そう、実は三郎の仕業と解る前に一口食べたのだ。(仕方ないんだ。寝坊して朝食ってないから…つい)
今時のお洒落なマカロンだと思って口にして見れば、マカロンに見せかけた練りきり。
お陰で口の中がパサパサしている。



「すごいな…マカロンにしか見えない」


「関心してんじゃねえ!」


「残念ながら私にはこんな職人技は出来ない」


「じゃあ誰が…」



それにしてもすごいな、と様々な角度で練りきりマカロンを観察しているあたり本当に三郎ではないのだろう。
じゃあ、一体誰がこんなこと…と頭が混乱しはじめたその時、今まで静かだった雷蔵が口を開いた。




「あのね、本当は僕の口から言うことじゃないんだろうけど…………」


























雷蔵から静かに打ち明けられた真実に俺は驚きと同時に焦りを感じた。







ああ、俺は馬鹿だ。
深く考えもしないで勝手に三郎の悪戯だと決め付けて……


しかも、それをアイツの前で愚痴るだなんて、



「名前、」


























チョコレート詐欺事件









「もう、聞いて下さいよ伊作先輩」


「…なんだい?」


「今日程保健委員って事実を否定したくなった日はありませんよ。私、挑戦してみたけどやっぱり洋菓子は作れなくて、せめてと思って一番得意な練りきりでマカロン作ったんです。ピンクと黄色の。そしたら予想以上に上手く出来ちゃって、でも直接渡す勇気だけはなくて、下駄箱に入れといて後でネタばらししようと思ったんです。そしたら鉢屋くんの悪戯だと勘違いされて…」


「そ、それは不運だったね」





保健室の扉が勢いよく開き、抱きしめられるまであと……、





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勘違いカップル可愛いですよね!

あれ?私だけ…?
いやいや、同志がいると信じてる!!


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