「文化祭のビデオ、皆で見ないか?」



竹谷八左ヱ門の何気ない一言から始まったビデオ鑑賞会。
放課後、お菓子やらジュースやらを大量に買い、一人暮らしであるという三郎の部屋で行われる事になった。
ビデオカメラのコードをテレビに繋げ、再生ボタンを押した。





「いやー、懐かしいね」


「つっても、文化祭終わってからまだ一ヶ月しか経ってないけどなー」


「雷蔵達は劇やったんだよね?」


「うん、定番のシンデレラ」


「そーそー、確か台詞がほとんどアドリブってやつでしょ?」


「僕は継母役で三郎がシンデレラ」

『…ああ、そんな事もあったな』


少しづつ記憶を思い出し、懐かしみつつ会話しているとパッと画面に映像が映し出された。初めに校門にあった文化祭のアーチが映っている。



「この門、俺と三郎の二人で塗ったんだよー」


「最初は生徒会全員でやってたのを塗り終わった後に勘右衛門がペンキひっくり返して台なしにしたんだろ!」


「んで、俺ら二人で塗り直したんだよねー」



撮影者が動いたのか門を潜り、校舎へ向かっていく。途中、名前を呼ばれたのか出店の方にカメラが向けられる。
一旦、電源が切られたのか画面が切り替わり、校舎の廊下が映っていた。



「あっ、ナナシちゃんだ。狩人の格好してる」


「うん、赤ずきんちゃんのやつ。うちのクラス童話喫茶だったから兵助は白雪姫だったんだよねー?」


「あの時程豆腐に埋もれて死にたいと思った事はない…」


「で、勘ちゃんはフック船長」


「俺、あん時のフック貰ったんだよねー」



そういえばあの船長勘ちゃん、すごい人気だったな。兵助の白雪姫も。ただの喫茶店だったのに行列まで出来ちゃったもん。
その後も、写し出されていく映像の一つ一つに思い出話をし、そしてとうとう文化祭のフィナーレに催されたキャンプファイヤーが何処か高い場所から写っていた。





『いやー、怒涛の一日でしたなあー』


『あはは、ナナシ年寄りくさい』


『やっと終わったのだ…』


『女子怖い……』


『もー、兵助も三郎もまだ落ち込んでるの?たかが女子達に衣装脱がされただけで』


『雷蔵はされてないからそんなこと言えるんだ!!』


『女子怖い…』



そういえば、文化祭終わってから女子の半径3mに入るの嫌がってたっけ。
隣の三郎を見て見るとトラウマを思い出したのか、ガタガタと体を震わせていた。





『よし、今日俺ん家で打ち上げしよーぜ!』


『ハチの家の近くにスーパーあったよね?寄って行こうか』


『勘ちゃん、豆腐買っていくのだ』


『うーん…豆腐買うんだったらあっちのスーパーの方が…でも反対方向だし……』


『雷蔵…悩まなくても豆腐は兵助が買うさ』







『ナナシもくるよな?』


















『うん!』





















「いやー、面白かったねー」


「俺、飲み物取ってくるわ」



「俺、コーラ」

「僕フォンタでいいよ」

「豆乳」

「オレンジジュース!」

「ジャスミンティー」


「麦茶一択しかねーよ!」





若干キレながら部屋を出て行ったハチを見送り、残ったメンバーで談笑していると、突然テレビの映像が入った。



「あれ、屋上の床しか写ってないよ?」


「大方、何かにぶつかったか何かしてスイッチが入ったんだろ」



映像は未だにコンクリートを写し続けている。





『それにしてもよかったの?急に決めちゃったけど』


『おう、どうせ両親は旅行行ってるしなー』


『ふーん』


『じゃあ行くね』


『ハチー!ナナシー!何してんのー?』


『豆乳も買おう…』


『うーん、やっぱり少しでも安い方が…』


『雷蔵が悩み始めたし早くしろよー』





ぷつりッ、と音を立てて映像は切れた。
「これで本当のおしまいかー」と言ってコードを抜き始めた勘ちゃんを三郎が止めた。



「何、三郎?」


「ちょっと待て、今のもう一回巻き戻してみろ」



勘ちゃんは不思議そうに首を傾げた。しかし、三郎の顔はなんだか青白くなっているように見え、コードを繋ぎ直し、最後の映像を流す。



「やっぱり…」


「何がやっぱりなの?」


「このハチとナナシの会話の所、一人分返事が多いんだよ」



ほら、と言って再生された音声の中に確かに見知らぬ声が入っている。
私の悪戯だろとみんなが疑いの目を向けるが、断じて私ではない。だって、こんなに高い声出ないもん!




「じ、じゃあやっぱり……」


「それよりさ、この『じゃあ行くね』ってつまりハチの家にって事かな?」




その場にいる全員が言葉の意味を理解したその時、タイミング良く人数分の飲み物をもったハチが帰ってきた。



「たく、ほらよ。この暑いなか買ってきてやったんだ、料金はもちろ…「はい、120円。ゴメン用事あったので帰ります」え、はあ?」


「俺もー」


「豆腐買いに行くから」


「ハチ、家にいないほうがいいかもしれない」


「これ、私の家で使ってるお札だ。一応持っておけ」





ぽつんと一人残されたハチが、一時停止してあるビデオを再生して、泣きながら雷蔵の家に駆け込んだのはそれから一時間後の事である。



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あれ、シリアスにならない?
なぜ?
ホラーなのに?


わかった、これこそがホry



1万打ありがとうございました!!



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