ウチの学校に代々伝わる七不思議。
・第三音楽室の突然流れ出すピアノ、「エリーゼのために」
・夜中に動き出す銅像
・一段多い階段
・午前4時にあの世と繋がる鏡
・老いかけてくる保健室の骨格標本
・入ってはいけない森
「ねぇ、やめようよ」
勇気を振り絞って外へ出した声は思いのほか震えていた。
私のずっと先を歩いていた滝ちゃんと綾ちゃんは眉を寄せ、不思議そうな表情で振り返る。
「やめるって…ナナシ、これは我が学校の七不思議を検証しているのだ。それに、後一つではないか!」
「大体、私達六つしか知らないじゃん。七不思議として成立してないよ!」
「おやまぁ。それは…七つ目を知ってしまったら何が起きるか解らないという理由で調べなかったのだけれど…ナナシがどうしても知りたいと言うのなら調べてみる?」
抑揚のない声で淡々と言われ、それ以上聞きたくないと首を何度も振った。どうして、そんなに平然としていられるのかなあ!
「私も、ナナシの言う通りこれ以上は止めた方がいいと思う」
「三木ちゃん……!」
三木ちゃんの助け船に私は涙を流しながら感謝した。そうだよ、もう充分だから一刻も早く帰ろう。すぐに帰ろう。さあ帰ろう。
「なんだ三木ヱ門、怖いのか?」
「そうではなk…「はい!怖いです!」…ナナシ、」
「学校でも薄々感じてはいたんだが、この森は本当に止めた方がいいと思う」
「三木ちゃん…?」
そう言い、森を睨みつける三木ちゃんは、顔こそ強張っていて怖かったが正反対に体はほんの少し震えていた。
「んー、まあ今までのよりはヤバいかなー」
「…綾ちゃん?なんか、今聞いちゃいけないような事を呟かなかった?」
「大丈夫、死にはしないから!」
「えっ、ゴメン。大丈夫要素が解らない」
会話をしながらもどんどんと進んでいく滝ちゃんと綾ちゃんに私は焦り始める。
どうしようどうしよう。今、帰らなきゃ絶対にいけない気がする。
「綾ちゃん達が帰らないなら、私達先に…「これ、なーんだ」……って、私の携帯!?」
「へーナナシってばこんな写真「うわあああ!」
いつの間に盗ったのか、綾ちゃんの手の中には私の携帯があった。
ヤバい、あれには秘蔵フォルダーが…!!
慌てて奪い携帯を開いた。てっきりアルバムを覗かれたと思ったが、そこにはいつもの見慣れた待受画面。あれ、と疑問に思った瞬間、手首を掴まれた。
嵌められた。
さあーっと、血の気が引いていく。
「だーいせいこー」
「ちょ、めっさ良い笑顔!」
「ほら、滝夜叉丸の説得で三木ヱ門も進む気になったみたいだし」
「ナナシ、私は私の名誉のためにも進まなければならない」
「さっきまでの三木ちゃんは何処へ行ったの?」
きっと滝夜叉丸に何か言われたんだろう。三木ちゃんは案外乗せられやすいから。
などと冷静に解説している間にも腕を引っ張る力が増していき、ついに私は森の入口に足を踏み入れた。
"キャハハハハハハ!!!"
「!!」
耳が痛くなるほどのかん高い笑い声が私達のいるその場に響き渡り、ぴたりと足を止めた。
さっきまで騒いでいた滝ちゃんと三木ちゃんも動きを止め、何処から聴こえてきているのかわからないその笑い声に冷や汗をたらりと流した。
震えだした私に気づいたのか、綾ちゃんは握っている手にギュッと力を篭めた。
しばらくして声が止んだ。
「……グズグズしてる間にちょっとヤバくなってきた。やっぱり帰ろう」
綾ちゃんの提案に今度は誰も拒否することはなかった。驚くくらい静かな滝ちゃんと三木ちゃんは私達の前を歩く。
「さあ、僕達も」
「あ…、うん」
手を引かれ、やっと動けるようになった私の身体は未だに震えが止まらない。
三人には聴こえないんだろうか。この、何かを引きずるような音が。
「………綾ちゃ「振り返ってはいけないよ」
「!」
「あの二人も気づいてる。このまま知らないふりして歩くんだ」
やっとの思いで寮に着き、今日は同じ部屋で寝ようということになり、滝ちゃんと綾ちゃんの部屋に集まった。
そういう事に詳しい綾ちゃんにしっかりとお祓いをしてもらい、明日の朝には奴は消えると教えて貰った。
女の子だからとか気にしてはいられなかった。
だって、寮の門のところにはずっと着いてきたアイツがずっと立っていたのだから
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