時刻は4時。
放課後のこの時間、いつもなら足早に帰宅するなり、友人達と遊ぶなりしているのだけれど、今日は違った。
原因はこの目の前に置かれた一枚の紙。本日実施された抜き打ちテストのコピーだ。
解答欄をずらして書いてしまうという初歩的なミスを犯してしまったばかりに再テスト。
しかも、本当なら受けなくてよかったのにね!
…まぁそれもなんとか終わり、身体を解すように背伸びをした。
「わっ、!」
突然窓から強い風が入り込む。
目を離したその瞬間、プリントは吸い込まれるように窓の外へ飛んでいった。伸ばした手も虚しくプリントは暫く空を舞い、近くの木に引っ掛かった。
さぁーっ、と頭から血の気が引いていく。
「とって、こなくちゃ」
気づけば靴も履きかえずに学校を飛び出していた。
▽
私の通う学校は山の上に建っているため、自然にあふれ森の中にあるとして結構人気があるのだけれど……今回ばかりはその事を恨むばかりだ。
プリントは見つかったものの、完全に迷ってしまった…。
この歳で迷子とか…あの二人じゃあるまいし。
とにかく誰か呼ぼう。
携帯の電話帳を開く。
孫兵と数馬は委員会中…藤内は塾だし、左門と三之助は…二次災害とか洒落になんないよ。
よし、申し訳ないけど作ちゃんに来てもらおう。
「……って、こんな時に電池切れとかさ!」
詰んだ。
これ完全に終わったわ。
再テストのプリントの為に遭難とか…。なんて恥ずかしい幕切れ。運よく事務のおじさんとか通らないかな?……通らないか。
途方に暮れ、動き回る事を諦めて近くの大木に座り込んだその時、救いの手が差し延べられた。
「作ちゃん!」
「・・・・・」
誰だよと顔を上げればつい先ほどまで求めていた(救助を)人、作兵衛が笑顔でこちらに手を差し出していた。
作ちゃん……本当、文字通りあんた神様だよ…!!
差し出された手を掴んで立ち上がると、作ちゃんはそのまま強く握り歩き出した。
「作ちゃん作ちゃん、本当にありがとう」
「・・・」
「作ちゃんが来てくれなかったら遭難してたよ」
「・・・・」
「あの二人だけでも大変なのにゴメンネ作ちゃん」
「・・・・・」
「作ちゃん?」
これは…怒ってらっしゃるんだろうか。さっきから話かけても反応してくれない。
それに、さっきから歩き続けているけれど帰るどころか森の奥に進んでいる気がするのだけれど…気のせいかな。
まさか作ちゃんまで迷ったとか?……いや、それはない…と信じたい。
「作ちゃん?」
「・・・・・・」
歩くスピードが速くなり、手を繋いでいたはずなのにいつの間にか手首を捕まれていた。
腕を引かれている私はついてついていけずにちょっと小走りになる。
最初は焦っているのかと思った。
段々と早くなる歩くスピードに私の中にある疑心感が膨らんでいく。
どうして作ちゃんの手はこんなに冷たいんだろう…?
「ねぇ、作ちゃ…「危ねぇ!!!」
「うわっ!!」
いきなり後ろから身体を引っばられ、重力に従い倒れ込む。
一体誰だよと思い振り返ってみれば、今まで手を引いてくれていた作ちゃんだった。
「お前…、何してんだ!落っちん死まうところだったんだぞ!!」
「えっ……、?」
言われてみて初めて気づく。
あと一歩、足を踏み出していたら……考えるだけでも背筋が凍りつき、身体が震えだす。
「わっ私、」
「はぁー…、たくっ、こんなとこで何やってたんでぃ?」
「ぷ、プリント、取りに…それで、手、手を引かれて…」
そこでやっと気づいた。
手首にはどす黒い色の痣が出来ていた。
人の手の形のようなその痣は幾つも幾つも付いていて、やけに生々しい感触が消える事なく残っていた。
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作兵衛要素がほとんどないorz