三年は組 浦風 藤内
本日、各個人に割り当てられた六年生の観察をするという課題が出された。僕は忍たま筆頭である苗字名前先輩を観察する事になった。
まずは僕の知っている限りの先輩の情報を記そうと思う。
苗字先輩はほかの上級生の中でもそれ程名が知れている方ではない。
武術大会や行事などでも上位に名を連ねている訳ではないし、特別何かの能力が優れているという話も聞いたことがない。多くの生徒は「忍たま筆頭」「六年生の先輩」程度の認識しかないと思われる。実際先輩の事は、僕達下級生にどこまでも明るくてちょっと世話好きな方だとよく耳にする。
苗字先輩の朝は早い。
実はこの観察を始める為の予習をしたときに、だいぶ早く起きたのだが苗字先輩の部屋はもぬけの殻であった。やっぱり予習はしておいてよかった。
起床し、身支度をすませた先輩は軽くマラソンし(と、言っても裏裏山まで全力疾走)、そのままの足で学園内で自主トレしている生徒に混ざり、朝食の時間までずっとトレーニングに励むのだ。
朝食はバランス重視の定食を頼み、六年生の先輩達とおかずの争奪戦を繰り広げる。先輩は箸の扱いに長けていた。よくもまあ、箸だけであれだけの攻防が繰り広げられるものだなと思う。
激しい攻防を繰り広げた後は授業。上級生の授業ともなれば実習の授業ばかりなのだが、やはりそこでも特に目立つ事なく無難にこなし、普通な様子で他の六年生の先輩方と会話をしていた。
その後の委員会活動でも、抱き着こうとする少し息の荒い鉢屋先輩を軽くいなし、一年達の面倒を見つつ仕事を手早く片付け、めげずに飛び掛かってきた鉢屋先輩を再度埋めて(綾部先輩のターコちゃんに)、何事もなかったかのように委員会を終了させた。
僕はここで、とある疑問に気がついた。
"どうして苗字先輩が筆頭なのだろう?"
別に下剋上したいとかそういう訳ではなく、ふと思いついた疑問。
今日、観察していてもわかる様に先輩はどこまで行っても"普通"だった。筆頭とは統べる力は勿論のこと、その集団の中でも特に優れている人物が位置するはず。例がタソガレドキ軍の雑踏昆奈門の様に。そして、これはよく目にする光景なのだが、上級生のなかでも優秀とされる人達は皆一様に「優秀な奴だ」と評価していらっしゃる。しかし、いくら下級生がそれを尋ねようと六年生は決して口を開かない。………これはあくまで僕の予測の域なのだが、苗字先輩は予測がつかないほど優秀な方でその実力でいうとその事でさえ気取られないほど……「ほうほう、それで?」
「ですから、それ程の実力を……」
待て、僕は一体誰と会話しているんだ?
ピタリと筆を止めた瞬間、真後ろから伸びてきた手に調査表が抜き取られた。
「ふーん、へぇ…よく調べてあるねぇ」
「あ、あのっ、その、こ、これは…」
「あー、大丈夫大丈夫。これ課題でしょ?私が三年の時もあったよ」
そうは言われても観察対象にバレてしまうだなんてあってはならない事だ。きっとこれでこの課題は0点だ…
「はい」
「…え?」
「…え?って、これ提出するんだろ。大丈夫、今ここら辺には先生方いらっしゃらないから」
「で、でも…!!」
「よく出来てると思うよ。着眼点もいい。付け足す事といえば、ただ今フリーなので恋人募集中!ってとこだな」
「は?」
「じゃあなー、頑張れよ」
頭が現状に追い付かず混乱する僕をよそに、先輩は後ろ向きに手を振り、風に紛れるように消えた。次の日、恐る恐る課題を提出すると高得点をつけてもらう事が出来た。勿論、先輩にいわれたあの言葉は付け足さずに。
そして、消える前に聞こえた先輩のあの呟きも、
「下級生に感づかれるなんて、私もまだまだだな」
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きりん様、大変お待たせいたしました!
遺書、番外編で他の忍たま視点です。特にキャラの指定はないとの事で勝手に浦風藤内君にしてしまいました。
はい、ただ今私の中で三年ブームが起きております!……っと、ここで語ってしまうと長くなってしまうので自重しておきます。
では、修正などきりん様のみ受付いたします。
リクエストありがとうございました!
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