「ん、」
いきなり真横から飛び出してきたその小さな箱に驚き、目を見開いた。手に持っていたローファーは地面に吸い込まれるように落ちていき、それまで騒がしかった生徒玄関はまるで時が止まったかのように静止した。
最初の短すぎる発音を漏らした張本人はびっくりするほど真っ赤な顔でこちらをみているが微動だにしない。とりあえず差し出されたその小さな箱を受け取れば、真っ赤な顔のまま走り去って行った。
「……と、いうことがあったのですがね、これはどういう事なんだろう三郎さん」
「えっ、それを俺に聞く?」
「いや、だってさ、私竹谷くんと接点なんて一つもないっスよ?会話だってしたことないし。唯一の私の中の記憶に残ってた会話って言ったら、昨日の「先生が呼んでますよ」だよ?しかもよりによってゴリ松!!それが最初で最後の会話でしたまる!」
「で、だから?」
「つまり、プレゼント貰うような間柄じゃないんだよ。むしろ、人気者の彼からしたら私なんかそこら辺に生えてる雑草のような存在なのですよ」
「雑草って、……」
「何か私は竹谷くんの気を損なわせる様な事をしてしまったんじゃないだろうか。そうだよ!きっとさ調子に乗ってさ、あの可愛らしいリボンを解けば痛い目に遭うようなそんな仕掛けがあるんだよ。くそぅ、あんなに可愛らしいラッピングなのに…うわぁ〜私何やったんだろ。相当お怒りだよ…」
「ネガティブに考え過ぎだろ」
「だって!下心のない贈り物なんて身内以外から貰ったことない!!」
「(なんて可哀相なヤツ……)」
そう、思い返せばプレゼントには苦い思い出がいっぱいだった。クラスメイトにはプレゼントだと言われ紐を解いてみたら中から豆腐が飛んで来たり、新発売のチョコだと言われて喜んで食べれば毒味だと言われ、サンタさんと称してお父さんのいらぬお節介、人体模型を貰い…etc.
「三郎、どうしたの名前ちゃん。なんだか面白い顔してるけど」
「ああ、雷蔵…気にしてやるな。切なくなる」
「ふーん?あ、そうそう。はい名前ちゃんプレゼント」
「酷い!まさか雷蔵くんも!!?」
雷蔵くんだけは味方だと思ってたのに!!!酷いっ、裏切り者!!
「なんの事かはわからないけど、今日誕生日でしょ。だから、ね?」
「えっ……」
「おっ、問題解決…?」
「……………」
竹谷八左ヱ門、16歳
俺は今、恋をしている
お相手は苗字 名前さん。去年からのクラスメイトだ。好きになったのは確か4月頃、プレゼントと称したドッキリにまんまと嵌まり、その怯えの見える瞳に涙を浮かべながら抗議しているところを目撃した瞬間に俺の心は打ち砕かれた。
まあ、その一目惚れというヤツだ。三郎や勘ちゃんにはお前は惚れやすいだとかなんとかからかわれたが、残念ながら今回は本気だ。
その日からというものの登校中、授業中、休み時間中、掃除中、下校時等苗字さんの姿を目で追い、苗字さんの情報となれば全て漏らさず記憶した。昨日なんか初会話を交わしてしまった。いつもはゴリ松ゴリ松とネタにしかしていなかったけど、この時ばかりは本気で感謝した。ありがとうゴリ松!ちょうど一週間前、ついに苗字さんの誕生日を知った。知ってしまったからには何かしらしたいというのが恋する男子というもので、プレゼントを用意したんだが……
「あーもー!!なんであんな渡し方したかな!!!」
「竹谷、今部活中」
「あ、すみません」
あー、絶対に変な奴だと思われた。苗字さんすげえキョトンとした顔してたもん。馬鹿な事したなー…。しかも、渡した途端逃げるとか…
「通り魔かよ俺!!!」
「竹谷、グラウンド100周」
なんて最悪な一日だったんだろうか。せっかく苗字さんと距離を縮めるチャンスは過去最短の会話数で終わり失敗、しかも印象はきっとがた落ち。オマケに拷問のような量を走らされるしまつ。
フラフラとした足取りで玄関まで行き、溜め息を一つ漏らす。そして靴を取り出すため顔を上げた。
「えっ、」
「あ、竹谷くん」
「苗字、さん…?」
疲れ過ぎてとうとう頭がやられたのか、俺の下駄箱の前に苗字さんが立っているという奇跡が起きている。俺、末期だ。
「そ、その、朝渡されたプレゼント?の確認がしたくてきたんだけど…って、えええええ、何してんの竹谷くん!!!」
「いや、ちょっとこれは現実かを確かめただけだから……」
よし、大丈夫だ。(俺の右頬は大丈夫じゃないけどな)夢ではない。
ああ…苗字さん。その心配そうにこっちを見る表情も輝いて見える……それにしても強く殴り過ぎた。痛い。
「あ、あのね、ほら、私と竹谷くんって今までまともに喋ったりしたことなかったからさ、なんでプレゼント?くれたのかなーって…」
「………」
…ま、マジでか!?これはあれだよな、期待されてるって事でいいんだよな?おいおい、なんだよこの思ってもなかったチャンスは。よし、行くぜ俺!!
「じ、実は俺…「おーいそこのカップル、イチャコラすんのはいいが下校時間過ぎてんぞ、さっさと帰れー」
ちょ、ゴリ松、その勘違いは嬉しいが、このタイミングでって…えええええ、
「その、俺達は…「違うんですゴリま…松本先生!!私と竹谷くんはカップルとか恋人とかいう恐れ多いものではなくて、私が勝手にここに突っ立ていたというか座りこんでいたというか、そもそも私なんかが竹谷くんの恋人だなんて竹谷くんにスライディング土下座してサライを熱唱しながら走って日本一周ぐらいしなきゃいけないぐらい申し訳ないわけで…そうつまり、蟻がライオンに勝つぐらい有り得ないわけで…」
「苗字、もうそろそろ竹谷がかわいそうだから辞めてやれ」
「へ……って、ああ、竹谷くん!!やっぱり失神するほど嫌だった!?」
「……い、いや、大丈夫。帰ろうか…」
まさか、あそこまで拒否されるとは思わなかった…。もしかして苗字さん、俺のこと嫌いだったり……いや、まだチャンスはある。
「外も暗いし送るよ」
「えっ!!そんな滅相もない…」
「ほら、早く行こうぜ!」
「ちょ、まさかのスルー!!?あっ、竹谷くん待って!」
"クラスメイト"から"友人"に昇格しました。
(とりあえずは地味にがんばろう…!!!)
(あれ、怒ってない…?)
――――――――――
藍様、リクエストありがとうございました!
そして、遅くなりすみませんでした!
「ん、」と真っ赤な顔で言ってプレゼント渡す竹谷…いいですね!リクエストされた時は、そんな竹谷を妄そ…げふん、想像しては発狂しかけて、布団の上でゴロンゴロンしてました!
手直し、修正のご要望は藍様のみ受付いたします!
今後ともこの"透明人間"をよろしくお願いいたします。
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[mokuji]
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