「またか、」
ただでさえ狭い二人部屋のど真ん中にまるで当たり前のように陣取られた布団のかたまりにこれで何度目だとため息を着いた。実際、数えたところで、気の遠くなるような年月に打ちのめされるのだが、いい加減学習してくれても良いと思う。
とりあえず、自分の寝るスペースだけは確保しようとそのかたまりを部屋の端へずらすと、反撃と言わんばかりに枕が飛んでくる。
「うるさい、今日は気の効いた言葉を言おうと思ったんだ」
「つか、この枕俺のじゃねーか」
「くノ一教室が街で実習だったらしくてな、校門前で偶然遭遇したんだ」
「人の話聞けよ。てか、何贅沢に人の布団を重ねて使ってんだよ」
「フン、随分地味な衣だな。それで世の男など落とせると思っているのか?私のを貸してやらんこともないぞ」
⇒訳
「まあ、抑えた色がうまく映えているな。だが、何か貢がせるならばもう少し艶やかな色の方がいいな。私のを貸してやろう」
「いやいやいや、どうやったらそんな瞬間的に変換出来んだよ」
「フン、私は優秀だからな」
「いや、全然優秀じゃねーし。思いっ切り誤変換してるじゃねーか!!!」
「ふふっ……、あの時のなまえといったら…あれから土井先生さえ止めなければ何時間続いていた事やら…」
「(だからなまえの奴あんなに機嫌悪かったのか…)」
先程までの委員会を思い出し、渇いた笑みを零す。無表情でおよそ、そろばんでは鳴らない様な音を鳴らしながら帳簿をつける彼女はさながら般若のようであった。
珍しく一年生達もギブアップすることなく仕事に取りかかっていた。
「つか、後悔するぐらいなら言うなよ」
「考えたんだが誰かに呪いでも受けているのではないだろうか……?」
「ああ、お前のその頭がな」
とうとう訳のわからないことを言い出したこの妹バカに適当にツッコミ、自分の布団の救助に向かう。いつもは鍛練の一貫として池でも寝るが、明日組み手の試験があるためしっかり疲れを取らなければ試験に響いてしまう。何とかして掛け布団だけでも救助しなければ。
「なあ…、過ぎた事を悔やんでも仕方がないだろ。もう寝よう」
「文次郎……諭し方がまるで四十を超えたオッサンだぞ、やはり…」
「ピッチピチの15歳だよ!!なんだよ"やはり…"って!」
「嘘つけ、この布団加齢臭がするぞ」
「しねえよ!!したとしてももっとフローラルな香りだ!!!」
「フローラルって…、どこまでおこがましいんだ。したとしても濃厚な塩と刺激臭だろう?」
「悪かったな!!汗くさくて!!」
本気で心配しだす仙蔵にぶち切れ、無理矢理布団を奪い返し反撃をくらい最終的に互いに力尽き眠ったのは、結局いつもと変わらない明け方近くの事だった。