「久々知くんって、体が目的で付き合ってるってとこがあるらしいよ」
「確かにかっこよくて優しいかもしれないけどさ、君には想ってくれている人がいるじゃない。きっと君の事を何も言わずに優しく抱きしめてくれるよ」
「佐藤ちゃん、君は本当に久々知くんの事が好きなのかな」
「不破くん、確かに小学生でまだ幼かった君は考えて考えてそれでもその方法しかなかったのかもしれない。けれど、君は成長したんだ。ここで何もしなかったら小学生だった時の不破くんの想いはなかった事になってしまうよ」
異常なくらい静かなその場は驚くくらいのプレッシャーが掛かっていて、久々知兵助は背中にひやりとした汗が流れるのを感じた。暫くその状態が続き、やっと名前が口を開いた。
「何ってそりゃあ復讐だよ」
随分とあっけらかんとして言葉を発したが、その内容は随分と物騒で、余計にその不気味さを強調した。
「兵助さ、春を振った日"どーでもいいだろ"って言ったじゃん?どーでもよくないんだよ!!春、は、春は、私の事を理解した上で受け入れてくれた子なんだよ!?兵助だってあの四人は特別なんでしょ!!?なんでわっかんないかなあ!!!」
「、ッ……俺は…!!」
「……なぁんてね、ゴメンゴメン今のはちょっと私情がただもれだったね。まぁ、さっき言ってた事も理由っちゃあ理由なんだけど、本当のところはね………
兵助はさ、春の事が好きだったんでしょう?」
大きく目を見開く兵助。反論する事も忘れて固まっているところに、追い打ちをかけるように言葉を紡ぐ。
「最初は確かに遊んでたのかもしれない。でも、ただ笑って隣に居てくれた春に確かに惹かれていった」
「違う…」
「あの頃は、言葉では文句を言っていたけれど、どこか嬉しそうだった」
「違う……」
「だから、告白されたときに"やっぱりか"って思ったんでしょう?"やっぱり身体目当てだ"って…」
「違う……!!!」
図星だったのか、その表情は依然として蒼いばかりだった。私は、そんな兵助をどこか遠くのところで見ているように、どんどんと冷めていく。
「違う、違う、俺がアイツの事を振ったのは……、
名前、お前の事が好きだかからだ」
「そうだね」
うん、知ってるよ。だってね、
兵助の事ずっとずっと見てたのは私だもの
「じゃあ……」
「でもね、兵助のそれは"依存"ってものだと思う」
「違う!!俺、は………、」
「ううん。……ねぇ、昔は楽しかったよね、難しい数式とか科学式を一緒に考えてさ。そういえばあの頃からだったよね。他人に興味を示さなくなったの。…まぁ、唯一あの四人とは仲良くやってるみたいだけどさ」
「何が言いたい?」
「つまりさ、兵助の他人に求める規準ってそこなんだよね。私と同等のレベル、もしくは自分の意識を持って行ってくれる人。……私はさ、漫画の主人公とみたいに鈍感じゃないからさ、兵助の私を思ってくれてた気持ち、知ってたよ?でもね、よく考えてみてよ。確かに昔ずっと一緒で両思いでしたってのはよくあるよ。でもさ、兵助の場合"兵助の世界に私しかいなくて、他の女の子達は見下す、だから私が好き"……酷い話だよね」
「違う!俺、は……」
「本当は自分の事をちゃんと見てくれて、自分で閉ざした世界に入り込んできてくれた春に心惹かれた」
「………っ、」
「だけど私への依存心が強くて、自分の気持ちごと否定した。別に私は自惚れているわけじゃないよ。でも、兵助は反論できないはずだ」
何かに耐えるように俯く兵助。その握られた拳は力強く、真っ白になっていた。
やっと、兵助は自分の気持ちを理解し、受け入れたんだろう。
「私達さちょっと遅くなっちゃったけど、お互いに卒業する時が来たんだよ」
「……は?何言って…」
「互いの居心地良さに甘え過ぎてたんだよ。……きっと、ここでしなきゃ私達はいつまでたっても前に進めないし、またこんな悲劇を繰り返す事になるよ」
そうなれば、またお互いに傷つく。それも深く深く、沢山の人を巻き込んで。
そうして、どんどんと絡まってゆくんだ。
「わかっ…た……」
懐かしい、古びたベンチから立ち上がりそのまま出口へ向かう。
兵助の隣を通ったとき、込み上げてきた熱い何かが溢れてこぼれ落ちた。
「それじゃあ、さようなら」
本当はね、私も……
これが、私の答え
そ し て 、
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