あの何かと騒がしかった期末テストから一週間、俺は今小さな山道を歩いている。久しぶりに会うアイツはもうあの場所に着いているだろうか。この道はなんだか懐かしい事を思い出させる。
俺と名前のこの"幼なじみ"という関係性を互いに隠し合うようになったのは、意外と早く、小学校に入った頃だった。
幼稚園の時から自分達の異常さに気づいていた俺達は、周囲から浮いていた。
俺達は親の優秀な遺伝子を純粋に受け継いだのか、俗にいう天才児という存在だった。他の園児達がお絵かきを楽しんでいる間に、高校生レベルの数式を解くのを楽しんでいる…という風に。
そんな俺達も、幼心なりに"友達"という存在に憧れた。
……が、それと同時に二人でいるとどうしても異常さだけが浮き彫りになってしまう事も確かに理解していた。二人でいる時間は確かに楽しくて大切だけれど、このままの状態ではいけないと判断した俺達は決別を決意した。
それでも、やっぱり物足りなさを感じた俺達は互いの部屋を始め、誰にも見られない秘密の場所で会う事にした。
今向かっている場所もその内の一つだ。
石の階段をのぼり、開けたその空間にあるベンチに座っている人物に声をかける。あの頃よりも伸びた髪を抑えてゆっくり振り返り、笑顔を浮かべた。
「ここで会うのは久しぶりだねー、兵助」
「………ああ、」
「…で、今日はなんの用かな?」
「………」
「なーんて質問は野暮ってヤツかなあ。うんうんわかってたさ、どうせ兵助には直ぐにバレちゃうって、ね。よし、聞こうじゃないか君の推理をさ!」
なんだかいつもよりも饒舌な名前に疑問を抱いた。しかし、それ以上口を開く事のない名前に、根負けしたため、ポツポツと言葉を発した。
「……最初に違和感をもったのはあの三郎達とのゲームの最中だった。確かに佐藤さんの男嫌いが治っていくのは自然的にも見えた。でも、いくらなんでも順調過ぎた。まるで小説の、まわりに助けられながら立ち上がる主人公みたいに」
「いいことじゃん。苦手を克服していくってのはさ、」
「演技だったという可能性も考えた。でもそれは雷蔵の証言で消えた、ということは、俺ら以外にも影響を与えるだけの人物がいたということになる」
「人物Xってヤツだね」
「次に起きた異変は俺のまわりだ。付き合ってたヤツらが一斉に別れるようになった。中でも驚いたのは、セフレってのを了承して付き合ってたヤツらまで別れ話を言ってきた事だ。問いただして調べたら名前の友達と名前に辿り着いた」
「女心と秋の空ってやつだよ。みぃ〜んなそう言ってた」
「……この間、ちゃんと話してきたよ佐藤さんと。びっくりしたよ、まさか佐藤さんが俺と名前の関係知ってるとは夢にも思ってなかったからさ。教えたのか?」
「……いや、知らないよ」
この事実には本当に驚いているようで、言葉にもおふざけが消えている。しかし、それは一瞬の出来事だったようで、直ぐにいつもの調子に戻った。
「そうそう、佐藤さん雷蔵と付き合う事になったよ。なんだか、昔のいざこざがどうのこうのとか、雷蔵は名前に背中を押して貰ったとか言ってたけどな」
「やだなぁ、迷ってたみたいだから相談に乗ってあげただけだよ」
「……何より、一番の鍵はお前のその"復讐"好きというところだな」
そう、アイツの趣味は"復讐"、
五月蝿く聞こえていた蝉の音も、木々を揺らす風の音も、なかったかの様に聞こえなくなる。全神経を集中させて名前の言葉を待つ。そして、顔から表情を消して振り返ったアイツは、
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