テスト初日――
その日だけは、どのクラスでも普段の談笑や話声は聞こえず、かわりに公式やら法則やら英単語やらが飛び交っていた。
そんな中、ウェーブのかかった髪を揺らし、優雅な動作でこちらに向かってくる人が一人…――、
「ねぇ、名前」
「明美ちゃん、なあに?」
「何か面白いそうな事してるんでしょ?交ぜなさいよ」
「ふふっ、いくら明美ちゃんの頼みでもそれは出来ないよ。まあ、テストでも受けて待っててよ」
「あら、ツレない。…それは"みんな"が楽しめること?」
ハッとして教室中を見回した。驚くほど静かになった教室は異様な雰囲気を醸し出していた。ただ、顔に笑顔を貼付けるクラスメイトは異常なくらいその場に合っていて、
「さすがC組ってとこかな、邪魔しないでね☆」
時は変わって、テスト結果発表日。うちの学園は進学校ということもあって、各学年上位50名の名前が張り出される。
「ど、どうしよう……なんか不安になってきた…」
「大丈夫だってー。だってこの私が教えたんだよ?これで良くなかったらもう手の施しようがないネ☆」
「あ、なんか急に名前をシバきたくなってきた」
「え、酷くない?」
「今のは名前が悪いよー」
「春まで……!!皆して私の心弄んでたのね!!!」
「あ、出てる出てる。結果発表」
結果発表の張り出される掲示板の前に行けば、もうすでに人垣が出来ていた。そんなことは別に気にする事ではなく、むしろこの騒ぎに目を向けるべきだ。
「おい、C組が一位って……」
「いや、それよりもあの久々知が四位って初めてじゃないか?」
「てか、今回のテストどうしたんだよ。上位にC組ばっかりとか……」
「うわぁ、名前ちゃんすごい!!」
「……本当、なんで普段からこうやらないのか…」
「まあ、こんなもんだよね」
噂の順位結果は、上から私、春、結衣、兵助の順。もちろんてっぺんから数えて。
喜び合う二人を余所に、もう一つの噂の集団へ視線を向けた。予想通りの反応にこの復讐劇の成功を確信し、結衣とハイタッチした。
「そうだ!今日はお祝いしようよ!」
「えー、別に祝う事ではないよー」
「は?別に名前の為じゃなくて私の為だし。ねー春?」
「あ、えと、二人のね…?」
そのまま何かあるわけでもなく、いつも通り冗談を織り交ぜつつ、各々の教室へと戻った。
春の笑顔には一ヶ月前の様な曇りは、もうなかった。
さて、この奇妙な復讐はこれで終了です。
え?こんなにあっけないものなのかって?
こんなもんですよ、復讐なんて、ね……?
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