私、佐藤千夏は昔から"男"というものが嫌いだった。
最初に嫌いになったのは幼稚園で同じ教室だったたくみくん。
たくみくんにはいつも意地悪されていて、酷いものでは、女の子の友達と遊んでいたときに滑り台から落とされた。今になって考えれば、よくある男の子の女の子に対する意地悪だったなんていえるが、当時の私には恐怖の対象でしかなかった。
そんな中、唯一の救いがお隣りさんだった雷蔵くんで、いつも泣きじゃくっていた私を優しく慰めてくれた。
そんな私が雷蔵くんですらダメになってしまったのは、小学四年生の体育の授業の時だった。
「おい、佐藤狙え!!」
「ちょっと、男子やめなさいよ!!」
「千夏ちゃんかわいそうでしょ!!」
確か、ドッチボールの時だ。先生が電話かなにかで職員室に呼ばれていなくなった途端、敵、味方関係なく集中放火。投げてくるのはやっぱり男の子達で、当時から私を理解してくれていた女の子達は私を庇ってくれていた。
男の子達の笑い声と友達の怒声が響くなか、ボールが雷蔵くんの腕に渡った。
「雷蔵、やれよ」
「………っ、ごめん…」
「、え……?」
口を開けてぼーっと立っていた私に当てるのはどれほど簡単だっただろうか。
私の頭に当たったそれは、勢いよく跳ね、床へと転がって行った。
暫く何が起きたかわからなくて、俯いて顔の見えない雷蔵くんを見つめていると、タイミングよく帰って来たのか、誰かがよんだのかわからないが、先生が雷蔵くんや他の男子が怒鳴られていた。
その日から私がイジメられる事はなくなり、雷蔵くんを含め、男が嫌いになった。
そんな私でも、このままじゃいけないのはわかっていた。
将来、仕事に就けば男の人と嫌でも関わらなくちゃいけなくなる。
それに、周りの友達に迷惑をかけるのはもう嫌だった。
それから高校に入って、どうにかしようといろいろ頑張ってみたけれど全部失敗。
更に二年生になってすぐのこと、学校でも1、2を争う噂の男の子達に追いかけまわされるようになった。……確か、雷蔵くんといつも一緒にいた四人だ。ちなみに、雷蔵くんとはあの日以来目も合わせていない。雷蔵くんもよほど私の事が嫌いだったのか、同じクラスなのにもかかわらず避けて、避けられての状態。
そんな私もいわゆる好きな人というものが出来た。
それが、あの四人のなかの内の一人、久々知くんだ。
久々知くんはあの三人と違って追いかけ回して来ないし、なにより、いちいち怯えて面倒臭いだろう私に優しくしてくれた。そんな単純な事だったのだけれど、私は好きになってしまった。
「そういえばさぁ、噂に聞いた話なんだけど……」
申し訳なさそうに、眉を下げて話はじめたのはこの前の委員会で友達になった苗字名前ちゃん。私のこの体質を一緒に直そうって言ってくれた子で、度々他の人にははなせない相談も聞いて貰ったりしている。
それにしても珍しいなあ。
名前ちゃんがこんな表情を見せるのは、
「A組の久々知くんの事なんだけど……」
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