「もうやだぁ〜、わかんないっ!!!」





そう言って使い古されたャープペンシルを投げたのは結衣だった。
可哀相に、何の罪もないシャーペンは真っ白な壁に跳ね返りそのまま床へ落ちて行った。



「これこれ、物に当たらない」


「もーやだ、大体なんで純然たる日本人の血を受け継ぐこの私が外国語、それもよりによって英語なんかわざわざ勉強しなきゃいけないの!!!」


「帰国子女の癖になんで英語が出来ないの」


「うるせぇえ、大体、住んでたのイタリアだし!イタリア語なら完璧なんだよ!!」




おいおいと泣き出す結衣に溜め息を一つ漏らし、手に持っていた赤ペンを机に置いた。



「じゃあ、少し休憩しようか」


「やたー!!こうなったら本格的に休憩してやる!そうだ、ケーキ持ってきたんだ!!」


「糖分を摂るのは大いに賛成だけど、お腹いっぱいになると睡魔が襲ってくるからだめ」


「えぇー酷い!!!いいじゃんケーキ!美味しいし、糖分摂れるし美味しい!!」


「糖分摂るのなら砂糖がオススメだよ、あれは砂糖の塊だからね」


「それオヤツって言わないいいいい」



せっかくの妥協案をブーブーとうるさかったから瓶の中ににあった飴をあるだけ口の中に放り込んで強制的に黙らせた。

が、今度はガリガリ飴をかみ砕く騒音に変わってしまった。


これはかなり苦痛だ。





「休憩終了のお知らせです」


「ガリガリ、……って、もう!?私結局飴噛み砕く事しかしてないんだけど!!」


「飴達も君の血となり肉となるのをきっと望んでいるよ……あっ、でも糖分だから肉にはならないか」


「ごめん、話聞いて下さいお願いします……春ならもっと優し…」


何かを言いかけてやってしまったとばかりに口に手を宛てがった。しかし時すでに遅く、途端に冷えた汗が背中を流れて行く。





「なぁーんだ、結衣は優しくして欲しかったのかぁ」


「いやっ、あの、名前さん……?」


「それならそうと早く言ってくれれば良かったのにぃ」


「だから、その、間違い、と、いうか……」


「……春はね、今頃立花<キチガイ>先輩と仲良くお勉強なんだよねぇ






だ・か・ら、私がその分目一杯優しくしてあげるからね!」


「……………」





その日、苗字さんのお宅から光が消える事はなく、時たま謎の悲鳴が聞こえて来たという。



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