人はみんな、私の事を"嘘つき"だという
「ハァッ、ハァッ、…ッ!!」
しかし、彼らの存在は"事実"で、
「ハッ、ハッ、なんでっ…」
私は確かに見えて"いる"のだ。
「追いかけてくるのさ!!!」
背後に迫りくる黒く澱んだそれは、何やら腕の様なものを伸ばしてきた。
何か叫びながら走り続ける私の姿に、道行く人達は不思議そうに見てくるがいちいち構ってはいられない。今、足を止めたら確実に喰われてしまう。
ヤバい。
今日のは本当にヤバい。
後ろを気にしつつ角を曲がり、大きく一歩を踏み出した。
その直後のことだった。
急に消えた地面、重力に従い傾く身体、
あっ、ここ階段だっけ。
気づいたときには既に遅く、次にくる衝撃に備え目を強くつぶった。
「おっと、」
いつまでも来ない衝撃に、恐る恐る目を開いた。
最初に目に入ってきたのはなんだか高そうな布。なんだか温かい感触に顔を上げれば、これまた綺麗なお顔のお兄さん。
ひぇー!こんなイケメンさんに突然抱き着いたのか自分!
事故とはいえなんて恐れ多い事を!!
どう謝罪しようか悩んでいると突然背筋が凍るような感覚がした。
ヤバい、アイツがもう来たんだ。
「あ、あの、突然すみませんでした!すごく申し訳ないんですが急いでいるんでそれじゃ!」
「ちょっと待て!おい!」
和服イケメンさんが何か叫んでいたけれど気にしない!だってあのお兄さんの後ろまで迫ってきてたんだもん。しょうがないさ、うん!
ちょっとばかり罪悪感が残ったが、自分で自分に言い聞かせ自宅へと滑りこんだ。
家にさえ入ってしまえばこちらのもの。
よかった。うまく逃げれて。
「……もう嫌だ、こんな生活…」
伸ばしていた足を抱えるように引き寄せ、俯けば涙が溢れだ。
「おい、三郎!」
いきなりの怒声に苛立ちを覚え、振り返れば傷んだ銀髪が特徴的な仕事仲間が、不機嫌そうな顔でこちらに向かってきていた。
「ハチ…」
「おい、動くなよって言っただろ!お陰でおれが依頼人に怒鳴られたじゃねーか!!」
「ああ…気難しそうなじいさんだったからな。じゃあ帰るぞ」
「そうだよ!だから俺が…って、は?」
「ほら、この壷。蓋は開けるなよ。それを依頼人にみせりゃあいいから」
「俺が行くのかよ!!」
未だに喧しいハチを無視して先に停めてある車に足を運ぶ。
なんでこんな案件にわざわざ私が足を運ばなきゃならないのか…全く。
まぁ、収穫もあったけどな。
「三郎、これどうしたんだよ。出る時には持ってなかったよな…?」
「さっきそこで捕まえたんだ。ちょうど餌が飛び込んきてな」