あれは僕が二年生の時だったなぁ。学園長先生のお使いで裏々山の向こうの寺に行った帰りの事なんだ。
予定よりも大分遅くなっちゃったから急いで帰ろうと走ってたんだ。でもね、段々おかしな事に気がついたんだ。山の中を走っていたはずなのに全く生き物がいないんだ。鳥は疎か虫もいないんだよ。不思議に思っていたその時にいきなり声が聞こえたんだ。それも当時の僕と同じぐらいの子供の声で、

『ねぇ、こっちにおいでよ』

なんせなんの生物もいない山だったからねびっくりして振り返ったんだ。でも誰もいないし気のせいかと思ってまた前を向いたんだ。そしたらね、……





「そ、そしたら……?」

「な、何が起きたんだよ勘ちゃん…」

「あれ、三郎と八奮えてる」

「な、雷蔵!別に私は恐い訳じゃ…」

「それより続き聞こうよ」



人も獣も眠っている丑三つ時、誰が発案したのか僕達は五年い組の兵助達の部屋に集まり、百物語をしていた。最初は乗り気だった三郎も八左ヱ門も恐怖に身を震わせていた。
兵助は兵助でさっきから豆腐を食べつづけている。まぁ、あれはアレは怖がってるんだろうなぁ。





「道に人の腕が落ちてたの」

「う、うで!?」

「うん、腕。調度この肘から指までの」


いきなり現れたから気味が悪くて、その腕からなるべく遠ざかるように避けてまた走りだしたんだ。後ろを気にしながらね。そしたらまた聞こえたんだ、あの声が。
さすがに怖くなって耳を手で押さえて目をつむってがむしゃらに走ってたらやっと学園に帰って来れたんだ。

よかった、やっと帰って来れた!

安心したね。はっちゃん達に会って早く忘れよう、そう思って門を潜った。そこでふと振り返ったらね、





「門の外にいたんだよ、あの腕が」




その時はまだ小松田さんもいなかったからね。怖くて怖くて動けずにいたらちょうどウサギが門から出て行ったんだ、腕の方に。
そしたら腕がウサギを掴んでね、



ボリンガリガリぐちゃぶしゅぐちゃぐちゃ、

ゴクンッ




音が聞こえなくなって暫くしてまた腕が出てきてね


『ねえ、こっちおいでよ』







「もし、一歩学園に入るのが遅かったら僕は…どうなってたんだろうね……」





ふっと、勘ちゃんが百物語様の蝋燭を消せば、三郎と八は互いに抱き合って悲鳴を上げた。兵助なんかは食べていた箸を落として口が開きっぱなしである。
勘ちゃんはそんな三人を見てふふっと笑った。



「流石に雷蔵はビビらないか」

「ううん、怖かった。勘ちゃん怪談とか上手いんだね」

「そんな事ないって」

「なあ、さっさ出てきたウサギってさぁ………」

「うん、あのあとぴょん太ってウサギを知らないかって竹谷が聞きに来たよね」

「………」

「わっ、馬鹿、何聞いてんだよ竹谷!!!」

「だ、だって」



墓穴を掘ってしまった八の隣には既に三郎の姿はなく、 僕の腕に抱き着いている。
全く、そんなに怖いならやらなきゃよかったのに。





「だ、誰だよぉ、百物語なんかやろうだなんて言ったやつ!!」



あれ、三郎じゃなかった。



「あれ、三郎じゃなかったっけ?じゃあ、雷蔵?」

「ううん、僕じゃない。じゃあ、兵助?」

「わ、私は知らない!!勘ちゃんじゃないのか!?」

「違う違う」



部屋の温度が急に下がった様な気がした。
だってこの百物語は誰かが発案したからこうやって集まって……だって、いくら意地っ張りな八と三郎だって、自分の怖い事をしようだなんて言わないだろうし…。




「それより私で最後だよね、百物語」



そう言えばあのこ、誰だろう……
実に楽しそうに笑う女の子を見て誰の知り合いだったか考えていると、勘ちゃんが袖を引っ張ってきた。



「ねえ、雷蔵の知り合い?」

「ううん、知らない。誰が連れてきたの?」

「お、俺じゃないぞ!!」

「わ、私だって知らん!」

「兵助……は、違うか…」



必死に首を振る兵助に全員がお互いを見合う。
そういえば、さっきから可笑しいんだ。最初集まったのは僕達五人だけだった。途中、誰も入って来ることもなかった。そう六人目、それもくノ一の子がここにいるなんて有り得ないはずなんだ。
誰が始めたのかわからない百物語、誰も知らない人間、いないはずの六人目、
風も吹いているはずもないのに、障子がガタガタと音を立てはじめた。





「そうだなぁ、やっぱり最後だしとびっきり怖い話がいいよね」





「題は、









見つからない言い出しっぺ





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