私は七松小平太が大嫌いだ。
あの驚異の身体能力、野性の勘も合わせ持った頭脳、誰でもわけ隔てなく接するあの寛容さ、小綺麗な顔、
何より、あの無邪気に笑うあの笑顔が大嫌い。
だから学園ではこちらかあまり関わらなかったし、話かけて来ても素っ気なく返し、常に睨みを効かせていた。だから就職先が同じ城だって聞いたときは絶望だってしたし、どうにか別の部署に配属されるように小娘ながら色々と手を回した。
なのに、だ、
どうしてコイツ一緒に任務をしているのだろう。
オマケに、仕方なく標的と寝た所までバッチリ見られた。最悪だ。
今だに固まってこちらをみている七松小平太に聞こえるよう溜め息をつき、返り血で気持ち悪くなった着物に火を着けた。
意味わかんない。
一言声をかければ七松小平太は驚いたように反応し、私に続いて城をでた。
近くの森林に入れば一先ずは安心だ。それにしても標的の城があまり忍を雇ってなくってよかった。
「なぁ、」
それまで一切口を開かなかった七松小平太がいきなり口を開いた。私は、標的と寝たままの身体もその真っ直ぐな眼差しも気持ち悪くて仕方がなかった。
ああ、もう、何なの。
「お前は私のことが嫌いなのか?」
感想を言おう、正直拍子抜けした。
ただ、急に何もかもが気持ち悪くなって、うざったくて、吐き出したくて、今まで必死に押し殺していたものが塞きを切って溢れ出してきて、全て全て壊したかった。
「…………ええ、ええ、そうよ、私はあんたなんか大っ嫌いよ、あんたのその身体能力も、その野性も、直球なところも解りにくい優しさも笑顔も何もかも大っ嫌いよ!!!」
「……………」
「……だから、学園だってあまり関わらない様にしてたのに、就職先は被るし、せめて部署は被らない様にしてたのに、仕事は一緒になるし、挙げ句、任務…見られるし、本当最悪……」
「…………」
「……でもね、1番最悪なのは私よ。何かいい能力があるわけでもないし、取り分け頭がいい訳でもない。容姿だって普通だし、性格だってこの通り悪い、何より、こうやって自分に無いものを持っている貴方を罵倒してばかり……本当、もう最悪………」
言い切ると同時に目の奥から何か熱いものが込み上げてきて、そのままわんわんと泣き続けた。
こんな、惨めで恥ずかしくて、どこまでもガキっぽい事をしたのははじめてだ。
「四年の時、」
今まで黙っていた七松小平太がいきなり口を開いた。
次の言葉を待っていると、私の嫌いなあの笑顔で近づいてきて、
「実習の授業で、私が怪我をした事に気づいてくれたのはお前だけだったよな」
「………」
「お前は、なまえはなんでそう自分の事が嫌いなのかはしらんが、
私は、よく人を見ているところとか、人一倍努力しているところとか、後輩には甘いところとか、笑うと目が細くなるところとか……
私は、お前の事が好きだ」
最後にニッと笑ったその顔は学園でいつも見ていたあの顔と一緒で……気づいてしまった。
あーあ、最後にこんな自分の最高に最悪な本音に気づくとか、
「………っ、違うの、違うの…本当は、別に、最初から嫌いだった訳じゃなく、て、どうしても私は比べてしまっ、…でも、本当は………っ!!」
そんな七松小平太が"好き"だったとか、
本当、最悪。