みょうじが死んで三日目の夜に通夜が行われた。



クラスの奴らは各々理由が違う様だが、みょうじの突然の死に動揺しているのは明らかであった。
あの坂本も、通夜が始まる前までは平然としていたようだったが、みょうじの両親からみょうじの病の話が出たときには流石に驚いていた。



私はどうしても信じられなかった。



だって、私はみょうじが死ぬ数時間前までいつもの様に話していたのだ。



今でも鮮明に思い出せる。









だけれど、こんな小さな箱に横たわるみょうじは確かに本物で、


閉ざされた瞼を見た瞬間、みょうじはもう目覚める事はないのだと悟ってしまった。























「でも、これで安心できるね坂本ちゃん」





一週間も過ぎたからだろうか、誰も触れなかったその話がぽつりぽつりと表に出てくるようになった。



「…本当は、そんなこと考えちゃ不謹慎だと思うけど、でも……」


坂本は伏し目がちに八を見る。八も戸惑っていたようだが、遠慮がちに肯定の言葉を発した。

もし、言葉を借りるとしたら

「世界から色が無くなってしまった」

だろうか?


陳腐な言葉も今なら身に染みてわかる。
結局、小説のように一人の人間の想いなどそう簡単に届きやしないのだ。
そして、世界は変わる事なく回る。


だけれど、そんなの寂し過ぎるじゃないか。





誰よりも寂しがりやのくせに誰よりも皆の幸せを願ってきたあいつがこのまま風化されていくだなんてそんな、























夕焼けがやけに赤く燃えていた。





「携帯携帯っと……、おっ、三郎まだ帰ってなかったのか?」


「ああ、ちょっとな」




何もせずに机に座る私がよほど不思議なのか、八はなかなか視線を外さない。



「これからデートか、」


「ち、ちげえよ!一緒に帰るだけだ!!」



「別に隠すことじゃないだろ。いいじゃないか、





邪魔者もいなくなって安心して付き合えるんだから」



口を開けて呆ける八の顔はなかなか面白く、思わず笑いがこぼれる。



「みょうじの事、疎ましく思っていたんだろ?」


「……今日のお前、おかしいぞ」



八の顔が段々と険しくなっていく。








「信じていたのに裏切られ、」










「……やめろ、」











「やったともやっていないとも言わない」













「やめろって言ってんだろ」














「それどころか嫌がらせは悪化していく一方、いっその向こうから消えてくれればいいのに…」











「やめろって言ってんだろ!!いくらなんでもなまえがかわいそ…「お前がそんなこと言う資格なんかないだろ」




胸倉を掴む八の顔が本当にぶざまでとうとう吹き出してしまった。
溜めていたものを全て吐き出す様に私は笑い続けた。しばらくたって「あーあ、」と一呼吸置いて一つの真実をわざと零す。






「一つ教えといてやるよ、みょうじが余命宣告を受けたのはちょうど一年前、ここ三ヶ月は学校に来るだけでいっぱいいっぱいの状態だったらしい」



「えっ、」



「まあ、後は自分で考えろよ」





机にかけてあった鞄を手に取り一人教室を出る。






ご都合主義結構。
私はどうしてもあんな終わり方は嫌だったんだ。


本当は知っていたくせに、わかっていたくせに、もしかしたらこちらに向くんじゃないかと何もしなかったのは私。


だけれど、アイツは、みょうじはこちらに向くことはなかった。一人の勝手な欲望で孤立させられ、一番信じて欲しかった人に裏切られてもアイツは最期まで何一つ変わらず笑っていた。





私のせいで、最期まで報われなかったみょうじへのせめてもの罪滅ぼし。



















「私は、八が羨ましかったんだ」











もう、何もかもが手遅れだけど、な……










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