「私は、真実が知りたい」






ただ、私は本当の真実が知りたくて当事者である目の前の彼女に尋ねた。
まさか私がそんな事を尋ねるとは思ってもなかったのか、少し驚いた様に歩みを止めた。



「なんで?」



「人の噂話など信用ならない」



当然の事を答えると、何故だか納得したように笑った。
そして再び階段を上る。
彼女の長く黒い髪が揺れる。

彼女の名前はみょうじなまえ、二ヶ月程前まで友人である竹谷八左ヱ門の恋人だった人物だ。
容姿も平均より上、成績も申し分なく、性格も良いと評判だったみょうじは今や嫉妬で狂った悪女扱い。
始まりはそう、ハチが坂本というクラスの女子に告白されたという事だった。もちろんハチは申し出を断った。いつもの事だった。
しかしその次の日、坂本がみょうじから怪我をさせられたと言いはじめた。
もちろんみょうじはそんな事をしないと皆否定した。しかし、その日から坂本が嫌がらせを受けたという話が絶えなくなった。極めつけは、階段ですれ違った際に突き飛ばされたという事。これは目撃者もいたらしく、その日からみょうじとクラスメイト達の距離は開いていった。
ハチも始めはみょうじの味方についていたが、階段の事件があったときに目撃していたらしくその日以降、付き合いをやめた。そして、まるで責任をとるようにハチは坂本と付き合いはじめた。

しかしこれはあくまで"本人の証言"。階段事件のときの目撃者達も遠くから見ていただけ。
すれ違った瞬間に自分から落ちるなんてよくある話だ。



私は、自分の目で見たものしか信じない、



「……昼休みに殴られたって言ってたあの日、私保健室にいたんだよね」


「……、」


「本当だよ?伊作先輩に聞いてみたらわかるよ」



階段を上りきり、鉄の重たい扉を開くと真っ青な空が広がっていた。
みょうじは手摺りに腕をつき、眼前に広がるグラウンドを眺めた。



「どうしてそれを言わなかったんだ、」


「だって、言ったところで信じてくれる人なんていないよ」



随分淡々とした答えが返ってきた。
しかし、それば紛れも無い事実だ。あの時はあのハチからも責められていたのだから。



「鉢屋くん、私明日から学校来れないんだ」


「どうして?」


「それは鉢屋くんが探してみてよ。きっと鉢屋くんならすぐに理由がわかるから」



ねっ?と言ってみょうじが振り返る。ちょうど風が吹き、彼女の長く伸ばされた髪が風に靡く。



「もし、鉢屋くんが知る事が出来たら、今度は鉢屋くんのお話が聞きたいな」



柔らかく微笑むみょうじには私の本心など全てばれているような気がした。しかし、私は一切取り乱す事なく、いつもの様に意地の悪い顔で「ああ、わかった」とだけ返事を返した。
みょうじはそんな私に満足したのか、再び視線をグラウンドに戻した。
グラウンドでは部活動が行われていて、絶えず掛け声の様なものが聞こえてくる。みょうじはそれらを愛おしそうな目で眺めていて、なぜだかその光景が胸にチクリチクリと痛みを与えてきた。











翌日、

みょうじは言っていた通り学校を休んだ。

そして、二度と学校にくる事はなかった。



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