体を包み込むような暖かく柔らかな光に思わず目を開けば、どこまでも広がる青空が目に入ってきた
上体を起こしてみれば心地良い風が吹き頬を撫ぜた
ここはどこなんだろう…
「やあ、ここにいたんだね」
あたりには木々があるだけで何もなく、どこからもなく聞こえてきた声に一拍置いて振り返れば、そこには白澤様がこちらに向かって歩いてくるのが見えた
白澤様はそのままわたしの隣に腰を下ろした
「探してくれたんですか?」
「それはもう随分とね」
「ふふっ、白澤様は本当優しいですよね」
それから私達は他愛のない話をした
いつもの様に、私は自分の知っている面白おかしい話を
白澤様は薬の話とか他の神様達のお話を
しばらく笑いあったあと白澤様は急に真剣な顔になった
「あーおかしい!」
「こんなに笑ったのは初めてですよ私」
「ほんと、君とこうしていつまでも居られたらいいのにねえ」
「…?」
なんだか様子のおかしい白澤様に笑うのをやめてその顔を見ると、白澤様もこちらを見ていて視線が合わさった
白澤様は腕を伸ばして私の体をそっと包み込んだ。私はされるがままに抱きしめられ、その心地よさに目を細めてそっと背に腕を回した
すると体が光に包まれ、驚き目を開くと足の先からゆっくりとゆっくりと透けだしてきているのが見えた
そうだ、わたし死んだんだ
「わたし、どうなるんですか…?」
「…ごめんね。約束通り天に一緒に行きたかったんだけれど、余りにも君を取り巻く怨が多くてこのままだときっと君を蝕んでしまう」
そう言って逸らした白澤様の視線の先には何か良くないモノ…黒いモヤが近づいてこようとしているのが見えた
あれはきっと、今まで利用してきた…以前は神だったモノたち
「いいんです、あれは私の罪の証です」
「…それでも君を守りたいんだ
でも僕にできるのはここまでだから……
…これから君はもう一度人として生を受けるんだ。そうすればもう彼らには君を追うなんて事は出来ないはずだから」
「最後まですみません…」
「その代わりいつになるかわからない。そこまでは流石に僕も干渉できないからね
…それに今までのことは一切忘れることになる」
「忘れないですよ」
「ううん、そんなことはない。再び生まれる時には抹消される」
「忘れたとしても絶対思い出してみせる
…だから、そんな顔しないでくださいよ」
今にも泣き出しそうな、それでも耐えている白澤様の顔を両手で包み込めば、重ねるように手を添えられた
「…そんなのは無理だ」
「なら、賭けましょう…?
もう一度人として生まれてそしてまたここに来た時に私が覚えていたらずうっと一緒に」
「……もし何も覚えていなければ…?」
「その時私が差し出せるもの全てを貴方に」
「…ははっ、それ君しか得をしないじゃないか」
「あら、ばれた?」
いつの間にか腰の辺りまで透けだしていて、もうそろそろ時間が迫ってきているのがわかった
「それじゃあまた会いましょう」
「早く来てね」
「白澤様、」
「なあに?」
「お慕いしています」
「僕も、我愛
」
「……
最後に教えてあげるよ、君はね神の遣いだったんだ
君の嫌いなその真っ白な髪はその証拠
次は幸せになってね」
腕の中にいた愛しい存在は完全に光の粒となり空へと消えていった
―――――――
――――
―――
「白澤様ー」
聞き慣れた声に呼ばれて、酌を持つ手を止め振り返ればほんの少し前にここへやって来た弟子兼従業員の桃タロー君が背負っていた籠を下ろしていた
「仙桃獲ってきました」
「謝謝、ありがと。そこ置いといて」
獲ってきてもらった仙桃は実に瑞々しくて、甘い香りがした
「あの、途中で白澤様のお知り合いだって方をご案内してきたんですけど」
「僕の知り合い?」
「はい。自分はここでいいからって店の入口で待ってもらってるんですけど、白澤様を呼んできてくれって」
「店の外に?変な客だなあ」
「女性の方でして」
「よし、行ってくる」
最後に添えられた一言に瞬時に態度を変えた僕に桃タロー君が冷ややかな視線を向けてくるがなんのその
一体どんなシャイな子なんだろうとワクワクしながら店を出た
振り返ったその子の顔を見た瞬間、驚きのあまり目を見開いた
それも瞬間的なことで、すぐに微笑んでずっと待ち望んでいた言葉を口にする
「おかえり」
「ただいま、白澤様」
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