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「名前さんってどれくらい強いの?」
唐突にそんな疑問をぶつけてきたのは桃太郎トリオの一員、シロさんだった
私自身は勿論、その場にいた閻魔大王、鬼灯様、書類を持ってこられた桃太郎さんまでもが目を点にしてシロさんに注目をした
「ひとえに“強い”と言ってもいろんな意味がありますからどう答えたら良いものか」
「いやいや、鬼灯様もそんな真面目に答えなくても…、第一名前さんも女性ですよゲームとかのことですよきっと」
「えーだって、雑誌に名前さんの事書いてあったよ」
はて、雑誌の依頼なんか受けた覚えはないはずなのだけれど…
ほら、と言って広げられた雑誌の一面を見てみる
この際、どうやってシロちゃんが雑誌を広げたのとかは突っ込まない事にしておこう
『亡者達を一蹴!最恐の鬼女!!』
そんな見出しと共に大きく写し出された写真には薙刀を持って亡者共をなぎ払っている自分の姿だった
ああ、この間の反乱のときのか
それにしてもいつの間に…
「こ、これ合成ですよね…?」
「いえ、私ですね」
「おや、これまた綺麗に写ってますね」
口元をヒクつかせている桃太郎さんをよそに記事の内容に目を通す
閻魔庁の事に関してはおかしなことは書いてないか…、鬼灯様に関してはなんだかいろいろ書いてあるけど
「強いといえば名前ちゃん、和漢親善大会でいろんな競技で優勝してたよねえ」
「そもそもあれは女性の出場者が少なかったんですよ」
「いえいえ、武術なんかは素晴らしかったです。決勝で名前さんの二倍はあろうかという女性を投げ飛ばした時には皆さん歓声や拍手も忘れて魅入ってました」
「それ、あまりにもの恐ろしさに声も出なかっただけなんじゃ…」
口元をひくつかせながら桃太郎さんは雑誌を覗き込む
それにしても恥ずかしいものですね
ゴシップとはいえ自分の事が乗っている雑誌を他人にみられるとは
「よく休憩中にワシと将棋とかするんだけど名前ちゃんすごく強いんだよ」
「へえ、そうなんですか?」
「将棋だけじゃなくチェスとかもします。特に大手だとかチェックメイトだとかを格好よく言うのに命懸けてる様な人達を打ち負かすのが好きで」
「なんて嫌な理由!」
「ワシそんな理由で対局させられてたの!!?」
「…今度ベルゼブブさんと対局させましょう」
三者三様の様子を気に止める事なく処理の終わった書類を閻魔大王の机に積んでいく
なんだかジェンガみたいになっているけど面白そうだから黙ってよう
「昔は趣味で花札とかしてましたけど最近はめっきりやらなくなりましたね」
「俺はね散歩が好きだよ!」
「ああ、シロさんはそうですよね」
よしよしとシロさんの頭を撫でれば手のひらに感じるふわふわの毛並み
ほんのり血生臭い香りがするのはきっと気のせい
「閻魔大王はまあ…良いとして、」
「ちょっと!ワシの扱い!」
「鬼灯様は金魚草栽培…桃太郎さんは何か趣味とかありますか?」
「え、俺ですか?今は覚えることが多くてそれどころじゃないですね」
最近は薬剤師の姿が板についてきましたよね、と言えば桃太郎さんは照れくさそうに笑い頬を掻いた
「そういえば趣味とは言えないんですけど最近やたら補修スキルが上がったような気がするんスよねえ…」
と語る桃太郎さんの目はどこか遠いところを見つめていた
なんだろう…
これが我が国のかつての英雄の一人……
「今度なにかお詫びの品でも持っていきますね…」
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