思い立ったら吉日、
すぐに準備し、天国にある高天原デパートへ向かった
あそこは一フロア全体が書店になっていて実に種類豊富でついつい何時間でも居続けてしまう

まさに魔窟






「あれ、名前ちゃん、奇遇だねえ」


「ああ、白澤様。こんにちは」



たまには違うジャンルも見てみようかと移動したところにこれまた珍しく白澤様がいた
手には和漢薬の何やら難しそうな本が2、3冊ほど
私はそちらの方はあまり知識がないので分からないが鬼灯様だったら理解することばかりなのだろうか


「白澤様でもこういう所に来られるんですね」


「え?」


「いや、白澤様のことだから世間一般でいういかがわしい本とかなら買いに行きそうだなと」


「別に興味がないわけじゃないけど僕、写真よりも実際に女の子と遊びたい派だし」



マジレスされても困る
その上、ブレない白澤様に私の中にある評価がだいぶ下がった



「冗談です。漢方の権威と言われている白澤様でも専門書を買いに来られるのだなと思って」


「例え知っていることでも他の人の違う視点から見た意見っていうのも面白いしね」


「そういうものですか」


「そういうものだよ。そういう名前ちゃんはどんな本を?」



白澤様に問われて思い出す
そうだ、ずっと楽しみにしていた新刊を買いに来たのだった
早く買ってどこか喫茶店にで軽く読んで行こうと自分の中で予定をたて、白澤様に別れを告げ、新刊コーナーに向かっているのだか一向に白澤様が離れる気配がない



「あのなんでついてくるんですか」


「ん?いやあ、どんな本か気になって」


「お茶の一杯ぐらいなら付き合いますが私、本読むので忙しいですから期待しないでくださいね」


「ありゃ、バレたか」



セリフとはそぐわない笑みを浮かべる白澤様を無視して目的の本の作者のコーナーに行けば、大々的な宣伝と共に最後の一冊がそこに置かれていた
ああ、よかったとその本を手に取れば向かい側からあ、という声




「あれ、鬼灯様」


「名前さん、奇遇ですね」


声の主は私の上司、鬼灯様だった
今は休憩時間なんだろうか、なんてこの時の私は呑気にもそんなことを考えていた

今思えばこの時、この瞬間が(逃げ出す)最後のチャンスだったのかもしれない



「げっ、」


「ああ、あなたもいたんですか視界に入らなかったもので…こんにちは白豚さん。本日は散歩ですか?」


「僕は神獣だ!!この朴念仁!!!」


「いや、ここ本屋なんでいつものノリでおっぱじめないでくれますかお二方」




なんてこった
本屋で鉢合わせちゃいけない二人がちょうど揃ってしまうなんて

…ったく、吉兆の印なんじゃないのか白澤様。ほんと仕事してください神獣様(笑)




「ところで名前さんはどんな本を?」


「まあ、いつも通りミステリーものばかりです」



会話をしつつも視線が注がれるそれは、まさに私が先ほど入手した本だった



「…あの、これよかったらどうぞ。私他の本も買うんで」


「いえ、先に手に取られたのは名前さんです。私は次の機会に購入することにします」


「そうだそうだ」


「貴方に何か言われる筋合いはないです偶蹄目」


「あんたらは悪態つかないと会話できない呪いでも掛かってるんですか」



どうして、こう…単体だとすごい人達なのに顔を合わせるとただの小学男児並に成り下がってしまうのか、私にはそれが不思議でならない
それにしても、いくら先に手に取ったのは私といえどこれでは後味が悪い
さて、どうしようか



「あ、じゃあ私すぐ読んじゃうんで読み終わったら鬼灯様にお貸しします」


「そんな、じっくり読みたいでしょうに」


「そうだよ!そんな無理に貸すことなんてないよ!!」


「どうせ私続きが気になって一気に読んじゃうタイプなんで大丈夫ですよ。それに、読んだ感想とか共有出来る人がいるのは楽しいですし…って、なんで白澤様がそんな膨れっ面なさってるんですか」


「だって、「では、お言葉に甘えさせていただきます」
空気読めよこの朴念仁!!!」


「ああ、わざとです」


「ど畜生ーーーーーーー!!!!!!」


「いや、だからここ本屋なんですってば」



周りにいた客や店員ははじめこそなんて迷惑なやつらだ、と冷ややかな視線を送ってくるも相手が地獄のbQや神獣だと分かるやいなや足早にその場を去っていった



「私、購入してくるんでもう好きなだけ言い争いしててください」


「やだよ!あ、僕が買ってあげようか?」


「いや、結構です。とにかく大人しくしててください」


何やらぶーぶー騒ぐ白澤様を放置の方向で足早にレジに向かうと唐突に重みの消える腕、
本を落としたのかと思いきや、いつの間にか私の前に来ていた鬼灯様がすでにお会計を済ませていて、ぽんっと私に返す



「お金、払います」


「いえ、無理言って借りる形になってしまったのでいいです」


「いやでも…」




「………、」 カチン


こうして、変な対抗意識を燃やし始めた白澤様により没頭に至る

正直下らない起爆剤だった…



「何が一番高いのかな!?六法全書!!?」


「いや、確かに高いでしょうけども…というか落ち着いてください」


「それとも広辞苑かな!!!??」


「いや、もうそれでいいんで頼むから落ち着いてくださいよ」


「やった!!って、名前ちゃん広辞苑読むの!?」



やっとのこと本屋を後にすることが出来た私の腕の中には目的のものと予定外の無駄にでかい広辞苑
普段から金棒だのなんだのを振り回しているので重さはさほど感じないが、こう…とにかくでかい

……私、始めて本を邪魔だと思ったかもしれない




「さっ、こんな常闇鬼神なんか放っておいて約束通りお茶しに行こう」


「先程も宣言しましたが一時間だけですよ」


「おや、そんな約束なんかしたのですか?」


「ええ、まあ…不本意ですが」


「白豚のくせになんて生意気な。森へお帰り。この先はおまえの世界じゃないよ」


「だから豚じゃないって言ってんだろ!!このジ○リマニア!!!」


「ああ、もういいですから。ほらちゃっちゃかと終わらせましょうねー。それでは鬼灯様、失礼します」


「デートのお誘いなのに面倒事の様に言われた!!!!!」



白澤様の無駄に広い背中をグイグイとエスカレーターへと押し込み、鬼灯様に別れを告げる









「………、」






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