手を振り払われたあの雨の日、三郎くんの様子は朝からおかしかった。
あの時だって酷く怯えた瞳をしていたし、何かから身を守るようにその小さな体を丸めていた。
三郎くんのご両親は雨の日に通り魔によって亡くなられたと雑渡さんから聞いた。
もしかしたらその時の記憶がフラッシュバックしているのかもしれない。
…と、いうのは頭ではわかっていたものの、
「やっぱりこう、グサッとくるものがあるんだよぉ…」
「あー…、まあ、それは仕方がないよ。トラウマはそんな簡単に消えるものじゃないからね」
「詳しくは知らねえけど、その三郎君は相当辛い目にあってきたんだろ?仕方のないことだろ」
「分かってはいるんだよおおおおお!!!」
でもね、やっぱり心に突き刺さるんだよおおおお
隣からため息が二つ聞こえてくる。くそおお、ショタコンの留くんなら共感してくれると思ってたのに…。
集まっていた場所が図書室なだけに頭を抱え一人うんうん唸っていればかなりの騒音になっていたようで、図書室の番人である中在家長次が怒り、不敵に笑いだした。
はい、すみませんでした。
そんな様子を黙って眺めていた伊作くんが急に真剣な表情になりこちらを見つめ話だした。
「名前、今彼に必要なものは安心できる場所と時間、そして自分をあたたかく受け入れてくれる存在なんだ
わかるかい?
三郎くんがその存在である君に必ずSOSサインを出しているはずなんだ。君はそれを見逃しちゃあいけないよ」
正直、伊作くんの言っていることはとうの昔に理解していることだし、うまくいかないからこそこうやって悩んでいたのだけれど、あらためて伊作くんの口からそう諭されると何故だか今までの悩みなんてちっぽけな問題だったのだと、すとんと心の中に落ちてくる。
くそう、これが本職とパンピーの差か…。
「……うん、」
「それはそうと、今日は三郎くんとデパートに行くっていってなかった?」
「…うん!あ、伊作くん留くんも一緒にいく?」
「僕らはいいけれど…、」
「ああ、いきなり俺らなんかがいたら余計警戒するんじゃないか?」
「そうかもしれない。でも、さ、私は三郎くんにもっと友達を増やして欲しいんだ。ホントはちゃんと自分で増やして行くのが一番いいんだけれどね。それにほら、私はこの通り女だし家には大人しかいないしさ、男の子にしかわからないことってあるでしょ?」
ね?、と言うと二人はやっとこわばらせていた顔を緩めてくれた。
目の前でお父さんとお母さんを失うなんてどれだけ辛いんだろう。私には最初からいなかったから全く想像もつかなかった。
だけど、もし今私が雑渡さんや尊奈門くん、伊作くん留くんの無残で残酷な最期が目の前で繰り広げられたらと想像してみた。とても苦しくて辛くて、そしてきっととても悔しい。悔しくて悔しくて、消えてしまいたくなる。
「まあ、なので君たちには三郎くんの礎となっていただきたいのです…!!」
「…お前なあ、」
「まあまあ、そう言わずに」
うちへいざゆかん!!と、格好をつけたポーズをとってみたところでピロリロリンと間の抜けたメロディーが流れた