少年と私
「何、男の子?小学生ぐらいの?…うん、わかった。探してみる」

「電話、昆奈門さんから?」


「うん。なんか今日から家に来るはずだった男の子が消えちゃったんだって」


「それは大変だね、僕も一緒に探そうか?」


「伊作くんの気持ちは嬉しいけど二次災害が起きそうだから…」


「うん…僕もそう思う……」



放課後、伊作くんといつものカフェでのんびりお茶していると突然掛かってきた電話。相手はお世話になっている家の雑渡さんからで、用件は今日家に来るはずだった男の子の捜索。自分の分の代金を置いて店を出た。


探すのはいいけどさあ、せめて写真とかメールで送ってくれないとどんな子探せばいいのかわからないんだけど。






それらしい子がいないかと辺りを見回す。
小学生の下校時間帯なのか、うじゃうじゃといるため見分けがつかない。


どうしたもんかと足早に歩いていると、目に入ってきた光景。

ぼんやりとした様子で道路を横断する男の子、車が猛スピードでやってきているのに全く気づいていない。


あの車、信号無視するなと直感したその瞬間、私の身体は走り出していた。






「危ない!!」

「キャーーー!!!」





通行人の叫び声でやっと気がつき目を見開いたその子を抱きしめ、そのままの勢いで植木に飛び込む。



「……い、つつ…おい、あんた「……う、わあああああ!!!」はっ!?」


「あああああ!!怖かった!!!あー、死ぬかと思った!!!!」


「……」


「もーなんであんなとこでボーとしてんの!そりゃあ信号無視したあの車が悪いんだけどさあ!!」

「……それは、」



明るい髪の色をした男の子は飛び込んだままの姿で固まって全く動かない。

おいおい、どうしちゃったのさ。


「おーい、大丈夫?」


「………」


「とりあえずコンビニ行こうか。膝、怪我してるし」



男の子の腕を取り、立ち上がらせる。

ほっそい身体だなーとは思ってたけど見た目通り軽いなー。だって力の無い方な私がこんな軽々と立ち上がられるんだもん。


信号無視した車はすでにそこにはいなかった。
その場面を見ていたらしい通行人が心配そうに私達を見ていたので大丈夫だと伝えると安心したように再び歩きはじめたので、私達もコンビニを目指して歩きだした。

































「ほい!応急処置しゅーりょー!」


「……、」



公園の水で傷口を洗い、コンビニで買ってきた消毒液とガーゼで応急処置をする。
よかったー伊作くんに簡単な応急処置を教えて貰っといて。



「さてと、帰ろっか。送ってってあげるよ、お家どこ?それかご両親に電話する?」


「……帰る家なんてない。それに父さんと母さんは…」


「……?」


「………っ、」


「うーん、お家がないのかー。…よし、じゃあ家くる?」


「は?」


「部屋なら腐るほど余ってるし、一日ぐらい泊めてあげる」



ね?と言って男の子の腕を引いた。一瞬驚いた顔を見せたが、それも一瞬の事で今では腕を引かれるままに歩いている。
まあ、尊奈門君はうるさいだろうけど雑渡さんなら許してくれるだろう。



















少年の手を引いて我が家に帰ると、雑渡さんや尊奈門くんが門の前にいた。



「ただいまー尊奈門くん」


「名前、見つかったか?」


「いやーそれがさっぱり!そのかわりと言っちゃあなんだけど、この子を一日泊めて欲しいなーって…」



少年を二人の前に出すと、少年も尊奈門くんも信じられないものを見たような表情を浮かべた。雑渡さんだけがおや?と言って目を細めた。



「何、知り合い?」


「いや、その子が探していた子だよ。今日、引き取ってきた子でね、三郎くんというんだ」


「ふーん、君三郎くんっていうんだ」



ちらりと少年を見ると今にも逃げ出そうとしていたので手を掴んで引き止める。



「雑渡さんは確かに包帯だらけで怪しさぷんぷんだしどうみてもヤーさんにしか見えないし……」


「…うーん、」


「名前、止めてやってくれ。組頭が…」


「まあ、何が言いたいかって言うとね、みんな優しい人達ばかりだから怖がらなくていいよ三郎くん」





少年は戸惑うように私と昆奈門さんの顔を交互に見て、小さく震える手でそっと私の手を取った。








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