『君は本当に覚えてないのかい?』


「いた、よ……」

「ならなんで……」

「あれ、でも誰だっけ……」

「え、? 」





頭に思い浮かんだその人は何故か顔がない。どんなに思い出そうとしても顔だけがない。それどころか、僕の記憶にある左京以外の人達の顔が全てない。
頑張って思い出そうすればするほどどんどん遠退いていく。

待って、なんで、



「左京以外…思い出せない……!!」

「おい、大丈夫か!?」

「なんでなんで…………、いっ!!」
「右京!!!」





突然の頭痛に頭を抱え込んだ。
思い出そうとすればするほど頭痛が酷くなっていく。なんでどうして、もちろんそんな疑問に答えてくれるはずもなく、次第に瞼が落ちてくる。最後に見えた竹谷くんの顔は何処かで見た事のあるような気がした。




































目を開けるとそこは真っ白な空間で、身体も浮いているのか、はたまたしっかり足を付けているのか全くわからなかった。





( あ、これ夢だ )





どれくらいいたのかわからないけど、早く帰らなきゃ。
僕が帰らなきゃ左京が困るしね。それに     も寂しがりやだから……。





(あれ?)



(      って? )



( 誰だっけ… )



( あれっ、おかしいな… )



( 覚えてもないのになんで、涙、 )





一度蓋を切ったように溢れ出してしまえば、もうそれは止まる事はなかった。

なんで、なんで、だって覚えて、すら、ないのに……。




























本当に?



君は本当に覚えてないのかい?





( え……? )





何処からか声が聞こえた。

振り返ってみても誰もいない。困惑する僕を余所に声は続けた。






ほうら、見てご覧



あの子は君の事を心配しているよ





相変わらず声は何処から聞こえるのか解らなかったけれど、何故だか示された方向に顔を向ける。

時代を感じさせる一室に敷かれた布団の上に僕が眠っている。その布団の周りには見知らない人が一人、黙って座っている。





( だれ…… )





紺色の衣、灰色の傷んだ髪、高いところで結ってあるけど彼はきっと男の子だろう。
覚えてないはずなのに、何故だか懐かしさが込み上げてきて、





( そうだ、彼は )



( 竹谷くん、だ )





気が付けば自分の足が消えかけていた。
そっか、夢が醒めるのか。相変わらず白しかない空間だったけれど、僕はあの声の主にありがとうと言った。










"ありがとう"、ね……



君はまだ思い出さなきゃいけない事があるんだけどね、







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