『とにかくその日は運がなかった』
とにかくその日は運がなかった。
穴に落ちている乱太郎君を救助しようとして自分まで落ちるし、善法寺くんのお手伝いで薬草を摘んでれば、授業で作ったとやらの罠に引っ掛かるし、小松田さんが目の前でこけてお茶をぶちまけられるし。 とにかく運がなかった。
自分何かしたかな?あいにく信じる神様もいないし、そんなに悪事を働いた事もない。溜め息を一つついて桶のお湯を被った。因みに、ここは大浴場。お茶を被って悲惨な姿になったのを見た吉野先生にお風呂の許可を頂いた。 よほどすごい姿だったのだろう。まるで牛乳で臭くなった雑巾を見ている様な目はきっと忘れない……うん。
「しっかし、こんな時間から贅沢なもんだ…」
いつもなら皆が寝静まった頃にいそいそと入っているから、こんな昼間っから大浴場を貸し切り出来るのはそうそうない。
「さて、と、」
もうそろそろ上がらないと生徒の子達がやってくる。僕は別に支障はないけれど、……まぁ、うるさいのが二人ほどいるしね。
さぁ、さっさと着替えてしまおう。
「おほー、いっちばん乗りー!……って、」
「あ、竹谷くん」
「あちゃ右京って………えっ!!」
「どうかした?」
「お、おまっ、おまっ、……お、おおお女ぁ!!?」
「うん?」
「うわぁあぁあぁあ!!!」
「た、竹谷くん?」
ピシャリと扉を閉められれば、静寂がその場を支配した。 それにしても逃げられるとは……ちょっとショック。やっぱり勘違いしてたんだなぁ。
てきぱきと着替え浴場の扉を開けば、すぐ横で竹谷くんが体育座りで顔を伏せていた。
「竹谷くん?」
「……」
「その、ごめんね……?」
「………」
返事がない、ただの屍の様だ……って、違う違う違うそうじゃなくて、返事を返して貰えると嬉しいんだけどなー竹谷くん。
「………お前、女、だったんだな」
「うん」
「なんで言わなかったんだよ」
「だってきかれなかったし」
「なっ、だからっておまっ「先生達は」
「先生達は最初っから知ってたみたいだよ」
「……お前は、あの天女と一緒なのか?」
急に黙るから、びっくりして顔を覗きこめば意外にも真剣そのものの顔をしていた。 なぁんだ、何を言うかと思えばそんな事か。いちいち驚いて損した。僕はもう一度笑顔を作って、その真剣で悲しいという彼の顔見つめた。
「違うよ」
「僕はそんな大層な存在じゃない」
「僕は、存在が赦されない
忌み子だよ」
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