『存在を確認する様に』
「思っちゃいないくせに」
苦しい紛れに吐いた言葉は二人目に来たアイツに見透かされていた。 確かにか細い小さな声だったけれど、確かに俺の耳に留まって離れなかった。
…――突然学園に降ってきた女に友人はおろか先輩達が惑わされた。
それだけの事だけどその事実に、俺は確かに精神を削られていた。
追い打ちをかけるように、五年い組の、女にして忍たまである…冬木椿が目立った行動をするようになった。なんでも私はこの物語の傍観者だと言い、天女を排除するだのなんだのと、矛盾した事を言っていた。 しかし、天女に惑わされず、だけど確実に疲弊していた同級生、後輩にはその言葉がまるで救いの様に聞こえたらしい。
「なぁ、矛盾してるよ」
あんなに疲弊していた友人達は冬木の傍に行くだけで気力を取り戻していた。だけど、その目は先輩達と同じ色をしていて、俺が異論を突き付けてもどこ吹く風の様だった。
そんな時に、だ、
二人目…右京が降ってきた。 俺はもう現実が辛くて、息が出来なくて、とにかくもう狂っていたんだと思う。 作戦は任務並に完璧だった。 五年は組のアイツに情報を売って貰い、惑わされない程度に親しくなり、行動を監視して……でも右京は何もかも違った。
まず天女とか以前にアイツは男だった。 そして、この学園の教師から生徒、事務員までに対して徹底した境界線を作っていて、それ以上は踏み込まないし踏み込ませなかった。
だけど、俺はその距離感が心地好くて、
「あ、やっほー竹谷くん」
「おう」
「今日は天気がいいよねー、洗濯物が早く乾く」
「ああ、狼達も喜んでる」
「ふうん」
「(……あ、呼吸がしやすい………)」
それからだろうか、自然と目が行く様になったのは。多分これは恋心とかそんなのじゃなくてただ心配だったのだと思う。
今日もアイツは生きているかと。
「僕は替えのきく存在だから」
「は?」
どうしてそんな会話になったかは覚えてない。 ただ、そう言ったアイツの表情にはなんの感情もなかった。過去に何があったかは知らないが、アイツは自分の死について何の感情も抱いていないのだ。
きっと、突然刃物を渡されて「死ね」と言われたらアイツは何の躊躇もなく自分のその首に宛がうだろう。
だから、いつも右京の存在を確認する様に話しかけるんだ
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