『思っちゃいないくせに』

てんにょ [天女]
天上界に住むという女性。
女性の天人。





こんにちは祖父も祖母も母も父も日本人な生粋の日本人、卯月右京です。皆さんは僕の事をどっかの天上界に住んでいる天女様だと期待半分疑い半分の目で見ているけれど、残念ながら僕は日本に住んでいる皆さんと同じ日本人です。まぁ、ちょっと特殊な家の生まれですが。

さて、こちらの時代にやってきて一週間がたった今、困った事が二つ。
一つは、なぜこの時代に飛ばされてしまったのか全く解らないということ。友人達と夏祭りに来ていたもんだから僕の格好はその時着ていた仁平だ。きっといきなり消えたもんだから彼らは驚いているだろう早く電気の通っている我が家に帰りたい。
二つ目はこの射殺さんばかりの視線だ。どうやら学園は現在内部分裂をしているそうで、その内の反天女派の人達の視線がかなり痛い(二重の意味で)。
どうやら前に来た天女さんの様にここの生徒達を惑わしていないかを監視しているそうだ。そんなに疑わしいのなら殺してしまえば早いのに。別に仕事には支障は出ないけれど、これでは一緒に働いているおばちゃんに申し訳ない。

握っていた鎌を地面に突き刺し、立ち上がる。ずっとおんなじ体勢だったから腰が痛い。
ふと小松田さんのいる門へ目線を向ければ上級生の皆さんに囲まれて出かけてゆく天女さん(自称)の姿。痛々しい視線もそちらに移った。ご苦労様です。


「右京、顔に土ついてるぞ」

「マジか、…って痛い痛い、力加減!」

「ハハッ、ほらよ取れた」


土の付いた手ぬぐいを片手に笑っているのは五年生の竹谷くん。
彼は上級生にしては珍しく、どちらにも属してないそうだ。
僕が草刈りを再開させると、竹谷くんは近くの縁側に座った。視線だけは相変わらず門へ向けながら。



「……どーせなら、お前みたいなのが来てくれればよかったのにな」

「はぁ、」

「まぁ、それ以前にお前男だしな!」


空笑いを続ける竹谷くんは何処か辛そうだ。





「本当はそんな事思っちゃいないくせに」





それにしても何やら勘違いされているようだ。






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